チャイエス店外日記「10.21―老舗中国人ホテヘルが消滅した日―」

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「チャイエス店外日記」

なかぞの 0 4,141 2019/09/17
忘れもしない2015年10月21日。大阪の老舗中国人ホテヘル『A(仮名)』が警察によって家宅捜索を受けました。

売春防止法違反(周旋)の容疑で同店の男性従業員3名が逮捕されたその事件は、テレビなど複数のメディアを通じて報じられました。

私がその事件を知ったのは翌22日の夕方、テレビのニュース番組を見ていたときでした。顔なじみの男性店員が手錠をかけられてビルから出てくる場面を見て唖然とすると同時に、「やっぱりこうなったか…」と納得してしまいました。
 
今回は、老舗中国人ホテヘル『A』摘発に至るまでのちょっとした裏話を、可能な範囲でご紹介しています。
これまで書いてきた「チャイエス店外日記」のシリーズ完結編という意味合いで、このコラムを書かせていただきました。

2013年の夏頃から妙な動きが…

2012年の暮れから翌2013年の夏にかけて、私はある中国人女性と頻繁に連絡を取り合い、定期的にデートもしていました。


リン(仮名)という名前の中国人風俗嬢で、彼女は数年前から『A』に在籍していたのですが、私と店外デートをするようになった頃から店を休みがちになりました。


じつは彼女は店の常連客からストーカー被害を受けていて、ネットの掲示板に誹謗中傷や、プライバシーの侵害にあたるような書き込みをされたり、自宅マンションの前で待ち伏せされたりしていました。嫌がらせの電話がしつこくかかってくることもあれば、女友達といっしょに買い物しているところに男が現れて、付きまとわれたりもしたといいます。
 
その話を聞かされた私は警察に相談することをすすめましたが、彼女は気が進まないようでした。そこで、とりあえずマンションを引っ越ししてはどうかと提案し、私も物件探しを手伝うことになりました。


店のほうではストーカー男をNG客扱いにし、今後一切彼女を指名できないようにしました。門前払いを喰らった男はかなり悪態をついたそうですが、もともと気の小さい人物で、店員に一喝されると、しゅんとなって帰って行ったといいます。
 
ところが1ヵ月が経った頃、彼女が引っ越した新しいマンションの場所がストーカー男に突き止められてしまったのです。たまたまどこかで彼女の姿を見かけて尾行したのか、ある日、彼女の携帯に男から電話がかかってきて、「居場所を突き止めた」と告げられたのです。


じつは電話がかかってきたとき、私もその場にいました。その夜ふたたび男から電話がかかってきたとき、彼女と激しく言い合いになり、たまりかねた彼女は私に電話を代わってほしいと言いました。


電話に出た私はしばらく男と話をし、最後に強い口調で「これ以上、彼女に嫌がらせをするなら警察に通報する!」と言いました。男は動揺した様子で「すみません」と謝り、電話を切りました。それ以来、ストーカー男から彼女に電話がかかってくることはなくなりました。
 
しかし、それで終わりではありませんでした。
男は最後に捨て台詞のひとつでも言いたかったのでしょうか。ネットの掲示板で、これまで彼女とのあいだにあった出来事をすべて暴露し、『A』が店ぐるみで売春をしていると吹聴し、さらに、自分が店からNG客扱いにされたこと、彼女に何もかも騙されていた、自分は被害者だと訴え、今後自分と同じような被害者を出さないためにも中国人売春婦とは遊んではいけないなどと、他の客たちに向けて注意を促すような書き込みまでしたのでした。


長文の書き込みが何回かに分けて投稿されたあと、男からのアクションは一切なくなりました。
 
念のため、リンさんは仙台に住む友人女性の自宅にしばらく居候することになりました。
彼女はもう『A』に戻る気はないと言い残して、東北へと旅立っていきました。
 
ネットの掲示板を見ると、例のスレッドは連日ストーカー男の書き込みに対するバッシングで荒れまくっていました。「お前ばっかりいい思いしやがって」とストーカー男個人に対するバッシングもあれば、『A』が売春店であることは周知の事実であるにもかかわらず、店の経営に難癖をつけ、売春そのものを批判するような書き込みも多数見られました。
 
その少しあとくらいからだと思います。ネット掲示板の『A』に関するスレッドにときどき妙な書き込みが投稿されるようになったのです。


もともとは客どうしの情報交換の場であった掲示板ですから、体験レポートを投稿したり、新規利用者が常連客に気になることを質問したりというのが、主なやり取りの内容となっていました。


そんな中、わかりきったことをあえて聞き出そうとする誘導尋問のような書き込みが、ちらほら見られるようになってきたのです。注意して読んでいると、一般的な風俗客の書き込みと毛色が違うことがわかりました。
 
ついに警察か入管が捜査に乗り出したな、と私は思いました。
捜査当局は、常日頃からそういった掲示板を閲覧し、不法行為の疑いがある風俗店を監視しています。捜査に乗り出す際には、当局側からも何らかのアクションを起こします。


客になりすましてさり気なく書き込みをしたり、質問をしたりして、摘発の際の証拠となりうる回答を引き出そうとしたりするのです。
 
近いうちに何か起こるとは考えませんでしたが、この店もそろそろ危ないのかなあ、行きつけの店がまたひとつなくなってしまうのかなあという、ぼんやりとした不安や失望感みたいなものは感じました。


すぐに足が遠のくことはなかったものの、リンさんが店を辞めると言っていたこともあって、以前よりは私の中で『A』に対する興味が薄れてしまったのは事実です。
それが、ちょうど2013年の7月頃だったと記憶しています。

警察による本格的な捜査が始まる

翌年の2月、久しぶりにリンさんから電話がかかってきました。
九州にいて、旦那さんとふたりで暮らしているとのことでした。じつは彼女、かなり前から九州地方在住の男性と結婚していて、大阪へは出稼ぎに来ていると話していました。


中国には前夫とのあいだに生まれた子供もいて、日本で働いて稼いだ金の一部を仕送りしていました。そういったプライベートな情報までストーカー男に掲示板で暴露されてしまい、彼女はショックを受けていました。
 
仙台の友人女性宅で居候を始めた彼女でしたが、向こうでの生活に馴染めなかったと言って数か月で大阪へ戻って来たあと、しばらくしてマンションを引き払うという話は聞かされていたのですが、そのあとどうなったのかは私はまったく知りませんでした。


すでに中国へ帰国してしまったのではないかと思っていただけに、九州にいると連絡があったときには、少しほっとしました。
 
この年の夏頃から、『A』に対する警察の捜査は活発化していきました。掲示板に妙な動きが見られるようになってから1年後のことです。


まだ掲示板の中だけでしか捜査当局の動きがつかめていなかった頃は、外国人風俗に対する監視ということで、それをおこなっているのが警察なのか入管なのか判別がつかなかったのですが、この夏になってようやく、その正体が見てきたのでした。
 
当時、私は2か月に1回くらいのペースで『A』に足を運んでいたのですが、店が入っているビルの向かいの駐車場で監視をしている捜査員らしき人物を何度も目撃しました。
入り口付近のスペースに駐車した車(セダンまたは軽自動車)に一見サラリーマン風の2人が乗っていて、ビルから出てくる人間に目を光らせていました。


ときどきメモを取る様子も見られたため、間違いなく捜査関係者だろうと思いました。
 
たいていの場合、『A』の嬢と客はその駐車場の中を通って提携しているホテルへ向かいますし、別のホテルを利用するにしても、ビルから出てくるときに必ず車の中にいる捜査員から顔が見えます。


他の店の嬢も頻繁に出入りしていますが、顔つきや仕草、歩き方などから、日本人か中国人かの区別はつきます。捜査機関の人間なら一発で見分けることができるはずです。
 
摘発されたときの報道によると、サラリーマンを中心に1日に約100人の客が『A』を利用していたとありましたから、警察は在籍嬢だけでなく、利用客についてもしっかり把握していたことになります。
 
捜査をしているのが入管ではなく警察だとわかったのは、嬢とふたりで駐車場の中を通り抜ける際に、さり気なく車の屋根を見たときでした。セダンの屋根にわずかな凹みのような箇所があったのです。赤色灯(パトカーランプ)が格納されている証拠です。


軽自動車のほうは、そのような凹みは見られませんでした。おそらく赤色灯を格納していないタイプの警察車両だと思われます。すべての警察車両に赤色灯が搭載されているわけではありません。とくに内偵捜査や聞き込みをするだけの場合だと、特別な仕様になっていない普通の軽自動車を使うことも、最近は少なくないようです。
 
入管も赤色灯を搭載したパトカーを所有していますが(白と水色に塗り分けられた、ちょっと可愛いデザイン)、警察のような覆面パトカーはありませんから、ビルの向かいの駐車場に張り込んでいたのは警察に違いないと思いました。
 
この期間にも、捜査関係者と思われる人物から例の掲示板への書き込みは続いていました。決して頻繁にあったわけではありませんが、注意して見ていると、ときどき「あれっ?」と思う書き込みが見つかることがありました。普段からよく掲示板を閲覧している人の中には、そのことに気づいていた人も一定数いたのではないかと思います。


また、ある知人からの情報によると、『A』が入っているビルの入り口に立って、出入りする女性を確認しては何やらメモをとっているサラリーマン風の若い男がいたとも聞いています。

中国人風俗嬢と温泉旅行へGO!

とくに目立った動きもないまま、さらに1年近くが過ぎました。
この頃になると、『A』が摘発の対象になっていることを少し忘れかけていました。
 
その年の5月、私は公務員時代の先輩に誘われ、温泉旅行に行くことになりました。
ふたりで行くのかと思い、ちょっと驚きましたが、そうではありませんでした。
三度の飯より中国エステが大好きなその先輩が連れてきたのは、『A』の女の子2人でした。


常連客である先輩は、『A』の店長にひとこと断った上で、女の子2人を借りてきたのだと言いました。それを聞いたとき、先輩が彼女たちを単なるデート要員として誘ったのではなく、「風俗嬢」として連れてきたのだとわかりました。おそらく宿泊先の旅館でそういう遊びをするつもりなのだろうと思い、彼のチャイエス好きに私はすっかりあきれてしまいました。
 
私たちは先輩の運転する車で、1泊2日で有馬温泉へ行くことになりました。
道中ずっと上機嫌だった先輩は、私のことを後輩の中で一番優秀なやつだったと、大げさにもてはやしました。


彼は私よりも9つ歳上でしたが、部署内で唯一、出身大学が同じということもあって、入局当初から私のことを可愛がってくれていました。仕事帰りに飲みに連れて行ってもらうこともよくあり、初めて中国エステを体験させてくれたのも彼でした。


「残念やなぁ、期待してたのに…」
私がやむを得ない事情により役所を辞めることになったのを、彼は嘆いていました。
 
同行した女性ふたりは、どちらもなかなかの美人でした。先輩が選り好みしたのかもしれません。ひとりは30代半ばくらいで日本人ぽい顔立ちをしていました。アイ(仮名)という名前で、『A』ではママの助手のような立場で、女の子たちの食事の世話をしているのだと言いました。


もうひとりは日本の大学に通う24歳の女の子で(学生ビザで風俗店に勤務するのは違法ですが)、かなりの長身でした。175㎝以上ありそうでした。ヒカリ(仮名)という名前のきりっとした顔つきのその女の子を、私はひと目で気に入ってしまいました。
 
昼頃に旅館に到着し、近隣のテーマパーク一体型の温泉施設へ行ってちょっとだけ温泉につかったあと、その施設内で昼食をとりました。
旅館へ戻り、男女別々に予約しておいた部屋へ移動すると、先輩は少し昼寝をしたいと言いました。
 
この日、彼は宿直明けで、庁舎から待ち合わせ場所へ直接やって来たため、少し寝不足ぎみだったようです。
「宿直室のベッドって、畳の上に薄い布団を敷いただけでしょ?寝心地が悪くて熟睡できないですよねえ?」


「そうやなぁ、しかも交代で起きて見回りもしなあかんし…。また金属弾でも撃ち込まれたらたまらんからなあ」
先輩はそう言って笑いました。
 
以前、私が勤めていた役所が入っている合同庁舎に、深夜に左翼の過激派によって金属弾が撃ち込まれる事件がありました。入管を狙ったものだったのですが、弾道が逸れ、べつの役所の局長室に命中したのでした。


そのとき庁舎内には宿直の職員が2人いましたが、あろうことか2人とも酒を飲んで寝ていて、事件に気づかなかったという大失態をさらしてしまったのです。
 
温泉に入ったあと、夜8時頃から夕食となりました。男性陣が泊まっているほうの部屋で、4人でいっしょに食べました。


アルコールが入りリラックスしてくると、みな口数も多くなり、とくに先輩の口からは次から次へと下ネタが飛び出すようになりました。女性陣もまんざらではない様子で、楽しそうにそれに応じていました。
 
最初は男女がそれぞれ向かい合って座っていて、おとなしめの合コンのような感じだったのですが、1時間もするとツーショットキャバクラみたいになっていました。


おおむね食べ終えた頃、先輩はアイさんを連れて女性陣が泊まっている部屋へ移動していきました。残った私とヒカリさんは少し気まずい雰囲気になりましたが、顔を見合わせて苦笑いを浮かべると、どちらからともなくキスをし、そのまま最後まで関係を持ってしまいました。
 
行為のあと、ヒカリさんが、1年くらい前に警察に摘発されたある中国エステのことを話し始めました。警察が乗り込んできたとき、その店のママはこう言ったといいます。


「『A』だって売春やってるでしょ。あそこは女もお客さんもいっぱい。なんで『A』は逮捕されない?なんでワタシのとこみたいな小さい店が逮捕されるの?」
ママは捜査員の前でしきりに『A』のことを訴えたのだそうです。


「もうすぐ『A』にも警察がくるかもしれません。ワタシちょっと怖いです」
ヒカリさんはそう言うと、悲しそうな顔をしました。
 
事件の容疑者の供述内容をもとに、警察が次の捜査に乗り出すことはあります。
ヒカリさんが話したようなことがあったのだとしたら、それが警察を『A』摘発に向かわせる動機になることはじゅうぶんに考えられます。


私の推測では2年くらい前から『A』の捜査は始まっていた気がしますが、ヒカリさんが話したようなことが、『A』を摘発する上での証拠のひとつにはなっているかもしれません。

「山が動いた!」

その日の昼過ぎ、私は、かつて勤務していた合同庁舎の5階の食堂へと向かいました。
昨夜おそく先輩から連絡があり、どうしても話しておきたいことがあるから来いと言われたのでした。


ちょうど昼休みの時間帯だったこともあり、食堂内はけっこう混雑していました。一般来庁者も利用できるようになっており、職員ではなさそうな人たちの姿もちらほら見られました。この日は朝から天気がよく、窓の向こうに大阪城の天守閣を綺麗に眺めることができました。
 
「ついに山が動いたぞ」
窓側の一番奥のテーブルにつくなり、先輩はそう言いました。
「えっ?」
その言葉が意味するところを理解して、私はぼんやりとした不安を覚えました。


「テレビ局の取材が入ったらしい。昨日の夜、『A』の女の子から聞いた」
「警察のやり口ですね?」
「おそらくな」
証拠集めのために、警察がマスコミを使って、捜査対象者を取材させることがあるのです。


「どんな取材だったんですか?」
「記者とカメラの2人だけで来たらしいんやけど、かなりダイレクトな質問をぶつけてきたみたいやわ」
「売春のことですか?」


先輩はうなずくと、「売春をしているという噂がありますけど、事実ですか?とズバリ聞いてきたそうや」と言い、口元に皮肉っぽい笑いを浮かべました。
 
「近いうちにガサが入るかもなあ…」
先輩は言うと、大きく伸びをし、頭のうしろで手を組みました。
「行きつけの店がまたひとつ減るぞ」
「そうですねえ…」


「あの女の子らと温泉に行っといてよかったなあ。ちょっとした記念旅行になったかもしらんで」
先輩は声に出して笑いました。私は苦笑いを浮かべながら、「かもしれませんねえ」と言いました。
 
それから間もなくして、『A』は警察当局によって摘発され、売春防止法違反の容疑で男性従業員3名が逮捕されました。2015年10月21日の夜のことでした。


このときの様子の一部は関西ローカルのニュース番組で放送され、テレビ局の記者が『A』に取材に訪れたときの映像もいっしょに流れました。
その放送を見て事件のことを知った私は、「やっぱりそうなったか…」と納得してしまいました。

『A』消滅後の大阪の中国人風俗

警察当局による摘発のあと、『A』は廃業しました。風営法違反容疑での検挙ではなかったので、営業を再開することは法的には可能だったはずですが、最近ではそうさせないために警察があらかじめ手を打つケースが増えているようです。


ビルのオーナーに対し、摘発された店が営業を再開する前に退去させるよう通達を出すのです。現在、大阪府全域で、店舗型性風俗店の新規出店は禁止されていますから、ビルから退去してしまうと、その店は新たに出店することができなくなってしまいます。


既存店を買い取り、名義変更して出店する方法はありますが、そこまでして箱ヘルやホテヘルを始めようとする経営者はほとんどいないようです。
 
老舗中国人ホテヘル『A』の廃業からそれほど時間を置かずに、大阪市内のあちこちで中国人デリヘルのオープンが相次ぎました。


私が聞いた話では、『A』が摘発されたことで不安を覚えた中国エステのいくつかが、デリヘルへと業態を変えて新規オープンしたのだといいます。そのタイミングで、『A』に在籍していた女の子たちの一部が、それらのデリヘルへ散らばっていったとも聞いています。
 
受付と待合室があるホテヘルに便利さや居心地のよさを感じている客の中には、デリヘルを敬遠する人もいて、『A』の消滅後、中国人風俗から足が遠のいてしまったという人や、日本橋の『C』に行くようになったという人もけっこういるようです。


『C』は現在、大阪府下で唯一の中国人ホテヘルとなっています(他にも広告が出ている中国人ホテヘルを確認できますが、実際に足を運んでみたところ、ホテヘルとしては営業していない様子でした)。
 
今年の春に、エステの経営にも携わっている中国人の元風俗嬢から得た情報では、大阪市内の中国系のエステやホテヘル、デリヘルの売り上げはなかり落ちているといいます。『A』消滅後に相次いでオープンした中国人デリヘルのいくつかはすでに廃業してしまったらしく、女の子の一部は『C』へ流れて行ったそうです。


『C』はホテヘルだけでなく、『T』という別の店名でデリヘルとしても営業していますから(在籍嬢は『C』と同じです)、客足が少なくなってきているとはいえ、それほど厳しい状況ではないようです。
 
ただ、中には行き場を失ってしまった女の子たちも少なからずいて、彼女たちの受け皿となるべく、ぽつぽつと中国エステが新規オープンしています。


職を失った女の子たちのために金を出して店をオープンするような人物とは、一体どれだけ羽振りのいい奴なのかと疑問に思われるかもしれませんが、じつは個人ではなく、会社がエステを経営しているのです。


『A』の場合もそうでしたし、『C』なんかもそうです。バックに資金力のある会社がついているのです。中国系の店を数多く運営していて、各店舗の店長やスタッフも、その会社に雇われている場合が多いと聞きます。そのため、ある店で店長をしていた男性を、別の店でも見かけたということが、これまでに何度かありました。
 
ある運営会社は中国人コミュニティに強固なコネクションを持っていて、その勢力は大阪府内を中心に、関東地方を除く多くの地域におよんでいると聞きます。出張先で利用した中国エステが、じつは普段よく行く店と同系列の可能性もじゅうぶんあるということです。


こういった運営会社の実態については、またべつの機会に詳しくお話ししたいと思います。

『A』摘発の裏で…

今年5月、私はある中国人エステ嬢とふたりで食事に行く機会がありました。
彼女はかつて『A』に在籍していたのですが、中国へ一時帰国していたおかげで摘発をまぬがれた1人でした。彼女は『A』が摘発された翌日に日本に再入国したのでした。


『A』の女の子数人と同居していたマンションへ帰ってきたとき、部屋に誰もいなかったので、みな仕事へ行っているのか、どこかへ出かけているのだろうと思い、とりあえず電話をかけてみたといいます。ところが誰とも電話がつながらず、不審に思った彼女は、べつの店で働いている友人に電話をし、そこで初めて、『A』が警察の摘発を受けたことを知らされたといいます。
 
「お姉さんが警察に逮捕されて、わたしびっくりして、そのあと泣きました」
という彼女。じつはそのお姉さんというのは、『A』のママだというのです。ママというのは店の女の子たちの世話係のような人物で、ホテヘルやデリヘルだと客の前に顔を見せることはなく、ちょっとした謎に包まれた存在でもあるのです。


彼女が『A』のママの妹だったことにも驚きましたが、それ以上に、ママが逮捕されていたという事実が私の興味をそそりました。
 
あの事件はテレビや新聞など様々なメディアを通じて報じられましたが、ママが逮捕されたという情報はどこにも出ていませんでした。


売春防止法違反容疑で男性従業員3名を逮捕したとしか報じられておらず、彼女から聞かされたことは裏ネタのようなものでした。報道があった時点ではまだ逮捕されていなかっただけなのかもしれませんが、その話を聞かされたとき、彼女の心境を慮りながらも、気持ちは前のめりになってしまいました。
 
彼女の姉だという『A』のママは大阪府警本部に留置されて取り調べを受けたあと、所轄の警察署へと移送されたといいます。


「何回も面会に行きました。そのたびにつらい気持ちになりました」
そう話した彼女。ママや同居していた女の子たちがその後どうなったのか聞こうとしましたが、彼女があまりに悲しそうな顔をしていたので、私はそれ以上質問するのをやめました。
現在、彼女はべつのマンションで一人暮らしをしているそうです。
 
 
『A』摘発の2週間後、私はある中国人エステ嬢と店外デートをし、その女から金銭を騙し取られるというショッキングな被害に遭ってしまいました。いま思い出してもはらわたがねじれるような気持ちになります。


さらにその10日後、私はちょっとした病気を患い、しばらく通院することになりました。
完治してようやく気分が落ち着いたとき、私の中で何かが吹っ切れたように、中国エステに対する興味がすっかりなくなってしまいました。
 
いま思えば、『A』が摘発されそうな予感がした時点で、私の風俗遊びに対する気持ちは、すでに転換期を迎えていたような気がします。



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この記事を書いた人

なかぞの

大阪府生まれ。22歳で文芸同人誌に参加。文学・アート系雑誌での新人賞入選をきっかけに作家業をスタート。塾講師、酒屋の配達員、デリヘルの事務スタッフなど様々な職を転々としたのち、現在はフリーライターとして活動中。足を踏み入れるとスリルを味わえそうな怪しい街並み、怪しいビルの風俗店を探し歩いている。

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