本番するキャスト!売上を持ち逃げする店長!トラブルの連続だったデリヘル勤務の10か月間

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本番するキャスト!売上を持ち逃げする店長!トラブルの連続だったデリヘル勤務の10か月間

事件

なかぞの 0 2,162 2023/10/24

前回のコラムでは、デリヘル開業までの準備期間に体験した裏話をご紹介しました。


今回はその続編として、店がオープンしたあとの日々の出来事を綴っていきます。開業マニュアル本には絶対に載らないような裏話ばかりです。

ついにオープンの日がやって来た!

約2か月の準備期間を経て、その年の5月1日に、デリバリーヘルス『BJスーツ女子クラブ(仮名)』がオープンの日を迎えました。


私はオープン前夜からパソコンの前にへばりつき、公式サイトや営業広告サイトの更新作業に追われていました。先着30名のお客さんに特別料金で利用してもらえるイベントを企画していて、あらゆる媒体でその宣伝をしました。


店長の田中さんはパソコンに不慣れだったので、私が深夜までひとりで黙々と作業を続けていました。そのまま事務所に泊まり、オープン当日を迎えました。


開店時間の昼12時を待たずに、さっそくお客さんから電話がかかってきました。受話器をとった店長の田中さんも、いつになく緊張した面持ちでした。


「お電話ありがとうございます。『BJスーツ女子クラブ』でございますっ!」

声が上ずっていて、私は思わずクスっと笑ってしまいました。


「アキラさん60分で指名入りましたー!」

いつもぼそぼそした喋り方の店長が、えらく威勢のいい声を上げたので、私はまたクスっと笑ってしまいました。


アキラというのはKさんのセクキャバからヘルプで来てくれている20代の女の子。ルックスは地味ですが、性格がすごくいい子です。スキューバダイビングが趣味だと言っていました。


立て続けにもう1本電話が鳴り、私は店長が応対しているあいだにアキラさんの携帯電話に指名が入ったことを伝えました。


女の子の待機所は事務所のひとつ上の階にありました。お客さんは30分後に来るということでしたので、待ち合わせ場所を伝え、準備しておくよう言いました。

お客さんからの注文

2人目のお客さんは90分コースで、近隣のホテルへのデリバリーを希望してきました。

リョウという30代の主婦(前回のコラムで、私が面接&写真撮影をしたという女性です)を指名し、色々と注文をつけてきました。


「ホテルへは私服で来て、部屋に入ってからスーツに着替えてほしい。8㎝以上のハイヒールを履いてきてほしい。パンツスーツとスカートの両方を持ってきてほしい。パンストは履かなくていい。できればメガネをかけて来てほしい」とのことでした。


私がリョウさんにその旨を伝えると、「わたし、メガネ持ってないんですけど」と言われました。リョウさんは普段からメガネもコンタクトレンズも使用していませんでした。


お客さんも「できれば」と言っていたので、べつにメガネなしでもいいかと思いましたが、店長はなんとかして用意しようと言い出し、私がドン・キホーテまで自転車で買いに行くことになりました。300円くらいの安物の伊達メガネでしたが、それをリョウさんにかけてもらいました。


お客さんから何か要望があれば、できるかぎりそれに応じるようKさんから言われていました。OLスーツ系のイメクラ店であることをアピールするため、それを機に無料オプションとして「メガネ」を追加することになりました。


その後も、少し時間を置きながらですが電話は鳴り続け、初日からまずまずのスタートを切ることができました。


この日の出勤人数は5名でしたが、すべてのキャストにお客さんがつきました。指名が3本以上入ったキャストもいました。


夜遅く売上金の回収に来たオーナーKさんも、幸先のいいスタートを切れたことに満面の笑みを浮かべていました。


「ゴールデンウイーク明けに、もうひとり新しい女の子が入店するから。なかなか可愛い子らしいで。田村が福岡から連れてきてくれるらしいわ」

Kさんはそう言い、嬉しそうな顔をしました。


田村(仮名)というのは、Kさんのセクキャバに出入りしているヤクザです。某指定暴力団の二次団体の幹部で、水商売関係には幅広い人脈を持っているようでした。


わざわざ福岡から女の子を連れてくるということは、何か訳アリなのかもしれません。私はあまり関わりたくないなと思いました。

忘れた頃に突然やって来る

ゴールデンウイーク中ということもあって、オープンから5日間は予想以上に繁盛しました。子供の日、閉店後にKさんが焼肉を食べに連れて行ってくれました。私と店長だけでなく、店に残っていたキャストの女性も全員参加で、すべてKさんのおごりでした。


平日に戻ると少し客足は落ち着きましたが、坊主で終わる日は1日もありませんでした。私は午前中から夕方までデリヘルで仕事をし、そのあとすぐ本業である酒屋の配達の仕事に向かうという忙しい日々を送っていました。


ヤクザの田村が福岡から連れてくると言っていた女の子は、結局入店しませんでした。詳しいことはわかりませんが、何やらちょっとした問題が起きたようです。


「かわいそうになあ。ヤバいことになっとるかもしらんで…」

セクキャバに配達に行ったとき、Kさんが田村にそんなことを言っているのが聞こえてきました。私は関わりたくなかったので、納品を終えるとすぐに帰りました。



5月の終わり頃だったと思います。開店前、私が事務所の床に掃除機をかけていると、インターホンが鳴りました。


野菜や果物の訪問販売や宗教の勧誘の人が来ることがよくあったので、面倒くさいなあと思っていると、間を置かずにまたインターホンが鳴り、つづいてドアを何度もノックする音が聞こえてきました。


私は急に怖くなり、そーっと近づいてドアスコープを覗いてみました。スーツ姿の若い男と、白髪頭の年配の男が立っていました。


私がドアを開けると同時に、年配の男が「警察ですぅ」と言って手帳を見せてきました。若いほうの男は無言で、室内をじっと覗き込んでいました。


「『BJスーツ女子クラブ』さん。間違いないね?」

「はい…」

「届出証明書と従業員名簿の確認に来ましたので、見せてもらえますか?」

「は、はい、少々お待ちくださいっ」


ラブホテル経営者のM氏が言っていたことを思い出しました。オープンしてしばらくした頃に、警察が必ず届出証明書と従業員名簿を確認しに来るという話でした(※前回のコラムを参照)。


日々の作業に追われ、そのことをすっかり忘れていた私は、警察の突然の訪問に少しばかり焦ってしまいました。


届出証明書と従業員名簿を年配の警察官に渡しました。従業員名簿には在籍者全員の身分証明書のコピーも添付してあります。


「あなた、店長さん?」

「いえ、店長は午後から出勤しますので」


「女の子の待機所はこの上やね?」

「はい、ひとつ上の階です」


「売上金なんかは必ず事務所で管理しといてね。女の子の目につくとこには置かんように」


年配の警官がそう言い終わると同時に、若いほうの警官が「盗難する女の子がいてますから、気をつけてください」と釘を刺すように言いました。


警察がそんなことにまで口を出してくるとは思わなかったので、いささか驚きました。女の子の待機所までチェックされるのかと思いましたが、その必要はなく、ふたりの警官は書類を確認し終わると、すぐに帰って行きました。


私はソファーに腰を下ろし、ふーっと大きな溜め息をつきました。警察が来たことをKさんにメールで伝えておきました。すぐに「ごくろうさん」と返信がありました。

女の子が迷子になった?

6月に入り、期待の新人キラリちゃんが入店しました。前回のコラムでも少し触れた、私が面接をした20歳の専門学校生です。業界完全未経験の、人気アイドルグループにいそうな今風の可愛いルックスの女の子です。


未経験者が入店したときは、講習用のDVDを見てもらうことになっていました。それでひと通り仕事の流れを覚えたあと、経験豊富な在籍嬢からアドバイスしてもらうというシステムを採っていました。男性スタッフが手とり足とりの講習をすることはありません。


公式サイトのトップ画面に「ピックアップガール」としてキラリちゃんの写真を掲載すると、まもなくお客さんから指名が入りました。


お客さんのもとへ向かわせる前に、待ち合わせ場所の確認や、ホテルへ行ってからやるべきことなどを、もういちど説明しました。


ところが、ここでちょっとした問題が発生したのです。私が説明することを彼女はきちんと手帳にメモするのですが、えらく書くのが遅いのです。


おかしいなと思って手帳を覗き込むと、彼女は私が口にしたことを一字一句もらさず書き取っていたのです。私が「えーっと」と言うと、彼女はその通り「えーっと」と書いていました。


これでは埒が明かないと思い、面接のときにも渡した「お仕事マニュアル」という冊子を彼女に持たせ、「わからないことがあったらこれを見て。それでもわからないときは、ぼくに電話してきて」と言いました。


それから、カップラーメン1個と缶コーヒー1本が入った袋を渡し、彼女を送り出しました。


広告代理店が開店祝いの花といっしょに、カップラーメン2ケースと缶コーヒー1ケースを差し入れしてくれたのでした。


Kさんの提案で、これはサービスでお客さんにプレゼントしようということになりました。

新規のお客さんのもとへ向かうときには、女の子にカップラーメンと缶コーヒーが入った袋を持たせるようにしました。


15分ほどして、先ほどキラリちゃんを指名したお客さんから店に電話がかかってきました。

彼女がまだ到着していないというのです。


焦った私は、すぐに彼女に電話をかけました。しかし、何度かけても出ないのです。何かトラブルに巻き込まれたのではないかと思い、すぐに事務所を出て探しに行きました。


その前にいちおう待機所のほうも覗いてみましたが、そこにはいませんでした。Kさんに電話して事情を伝えると、Kさんは今から事務所へ向かうと言いました。


待ち合わせ場所であるハンバーガーショップの前へ行き、お客さんに事情を説明しました。

幸いそのお客さんは怒ることもなく、「気長に待ってるよ」と笑いながら言ってくれました。


そのあとすぐ、キラリちゃんから電話がかかってきました。「ホテルに行ったらお客さんがいませんでした」と言われたときは唖然としました。


「ホテルじゃなくて、ハンバーガーショップの前で待ち合わせだよ」


私はかなりイラッときていましたが、女の子には優しく接するようにKさんから釘を刺されていましたから、怒りをぐっとこらえて、彼女にもういちど説明しました。


お客さんといっしょにハンバーガーショップの前で、彼女が来るのを待ちました。しかし、いっこうに到着しないのです。


すぐさま彼女に電話をかけると、ぜんぜん違う方向へ向かっていることがわかりました。彼女にはちゃんと道順を説明してありましたし、そもそも事務所からほぼ一本道なので、迷うことなどありえないのです。


私はお客さんに詫び、走って彼女を迎えに行きました。40分遅れでようやく彼女をお客さんのもとへ届けることができ、一件落着となりました。

女の子の天然ぶりに振り回される

事務所へ戻ると、Kさんが来ていました。


「色々あるんやて、こういう商売やってると」Kさんは苦笑いを浮かべると、「田中は夕方からしか来んからなあ。あんたもひとりじゃ大変やろうから、近いうちにもうひとり雇うことにするわ」と言いました。


そのあと続けて予約の電話があり、キラリちゃんは出勤初日からいきなり4本の指名が入る人気ぶりとなりました。ルックスのよさはもちろんですが、業界未経験という言葉に釣られて指名してくる男性客はかなり多いのです。


いちどキラリちゃんが、お客さんから受け取る金額がいくらだったか忘れたと言って電話をかけてきました。お釣りが入った透明のポーチに金額を書いたメモを入れてあるのですが、彼女はそのこともすっかり忘れてしまっていたようです。


接客を終えた彼女が事務所へ戻ってきました。


「しっかりサービスしてあげたか?」とKさんが聞くと、彼女は恥ずかしそうにうなずきました。


売上金を受け取る際、彼女の手元を見て、私は苦笑いを浮かべてしまいました。カップラーメンと缶コーヒーが入った袋を持ったままでした。


そのことを聞くと、いま初めて気づいた様子で「渡すの忘れてた」と、なぜか嬉しそうな顔をして言いました。

チャットで暴言。店にクレームの電話が!

夏が終わると、売り上げは少しずつ落ちて行きました。


この時期になるといったん客足が減るのは、どこの業界も同じだとKさんは言いましたが、新規オープンの店ですから、やはり年末に向けて少しでも固定客を増やしておきたかったのでしょう。


「そろそろ〝見えチャット〟を始めてみようか」と言いました。


『見えチャットTV』という風俗サイトがあり、女の子がパソコンのウェブカメラを使って、リアルタイムで動画を配信できるシステムになっているのです。


ユーザーはアカウントを取得して動画を閲覧できます。女の子のパンチラなどを見てムラムラした男性客が、店に電話をかけてくるというわけです。


『見えチャットTV』での動画配信に協力してくれたキャストは3人だけでした。たしかに女の子にとっては面倒なサービスかもしれません。


男性ユーザーの中には過激なポーズを要求してきたり、プライベートなことを聞き出そうとする厄介な人もいるのです。



『見えチャットTV』を導入してまだ数日しか経たないうちに、女の子のひとりがチャット上でお客さんとトラブルを起こしてしまいました。


千春さんという、Kさんのセクキャバからヘルプで来ている20代後半の女性です。過激なポーズを要求したうえ、千春さんのことを揶揄するような言葉を投げかけた男性に対し、彼女のほうも暴言で応酬したのでした。それに腹を立てた男性が店に苦情の電話をかけてきたのです。


Kさんが上手く応対して収拾はついたのですが、千春さんの怒りは収まらず、私たちスタッフに当たり散らしました。


いちど機嫌を損ねると簡単には直らない性格で、以前から何度も客とトラブルを起こしていましたが、顔もスタイルもよく、機嫌さえ損ねなければお客さんからはすごく人気があったので、Kさんも簡単にクビにするようなことはしなかったのだと思います。


私もいちど、セクキャバへ納品に行った際に彼女から一方的に喧嘩を吹っ掛けられたことがありました。機嫌が悪いと誰彼かまわず絡んでいく性格のようでした。


しかし、そのときの彼女の暴れようはすごかったです。大声を上げるだけでなく、物を投げつけたり店長につかみかかって行ったりしました。この人は何か悪い薬でもやっているのではないかと思ってしまうような暴れ方でした。


千春さんはもう二度と『見えチャットTV』はやらないだろうなと思っていると、数日後には何もなかったようにパソコンの前に座って脚を開いたり下着を見せたりしていました。


「あいつはいつもそうや。しばらくしたらケロッとしとるわ」

Kさんは言い、苦笑いを浮かべていました。私も苦笑いするしかありませんでした。

給料もらってないんですけどっ!

季節も変わり、だいぶ涼しくなってきました。週3日、パソコン作業ができるアルバイトの男性が来てくれるようになり、私も仕事が少し楽になりました。


その月の初め頃、またしても千春さんがトラブルを起こしました。


私が事務所で作業をしていると、廊下のほうから男女の口論する声が聞こえてきました。Kさんが怖い顔で事務所に姿を見せると、そのあとからふて腐れた表情の千春さんが入ってきました。


「この前ちゃんと渡したやろうがっ。これ見てみろ!」

Kさんが給料の支払い確認書を千春さんの顔の前に突き付けました。


「ちゃんとお前のサインがあるやないか!」

「でもわたしはもらってませんからっ!」

「じゃあ、なんでここにサインがあるんや?」

「知りませんよ、わたしに聞かれても!」


このまえ出勤したときの分の給料をもらっていないと、千春さんが一方的に言いがかりをつけてきたのでした。


私はたしかに彼女に給料を渡しましたし、受け取りのサインももらいました。その場にはKさんと店長もいました。


千春さんはKさんと10分ちかく口論したあと、事務所のドアを蹴って出て行ってしまいました。やはりこの人は悪い薬をやっているにちがいないと思いました。


「また機嫌が直ったら戻って来るんでしょうかね?」と私が聞くと、Kさんは眉間にしわを寄せ、「あいつはもうクビにするわ」と吐き捨てるように言いました。


しかしクビにする前に、彼女のほうから「辞めさせてもらいます」とメールが送られてきました。

16歳なんですけど大丈夫ですか?

12月に入り、夜の歓楽街もやや活気づいてきたように見えました。『見えチャットTV』の効果が出始めたのか、店の売り上げも少し回復してきました。


千春さんが抜けたあとすぐに、3人の女性から応募がありました。


最初のひとりは写真付きのメールを送って来たのですが、極端なぽっちゃり体形だったため、Kさんの判断でやんわりと断りの返事を送りました。


その女性からのメールには、「顔はあまり自信ないですが、スタイルは悪くないと思います」と書かれていて、唖然としました。この人は幻覚でも見ているのかと思ってしまいました。


2人目も写真付きで、なかなか可愛いルックスをしていたのですが、即刻お断りしました。


「16歳なんですけど大丈夫ですか?」と書かれてありました。大丈夫なわけがありません。18歳未満を雇うのは違法です。


バレると店の経営者が処罰されるだけでなく、その求人広告を運営している会社も何らかの処分を受けることがあります。自分たちだけでなく取引先にも迷惑がかかりますから、年齢確認は必須です。


3人目の女性は面接の結果、採用となりました。30代の既婚者でしたが、風俗経験は豊富なようでした。見た目も人柄も素朴な感じの女性でした。


とりあえずいちど体験入店してから、その後のことを考えたいということで、面接後すぐから仕事をしてもらいました。「朱里」という仮の源氏名を付けました。


その日は出勤人数が少なかったこともあり、公式サイトに写真をアップするとすぐに指名が入りました。

本番行為を自ら告白

接客を終えて戻ってきた朱里さんに、店長が「どうでしたか?」と聞くと、彼女はちょっと照れくさそうな顔をしました。


「すごくいいお客さんで、わたしもついテンション上がっちゃって、本番してしまいました」

「ええーっ!」

店長と私は同時に声を上げました。


「本番はダメでしょ、本番は!」

店長がやや強い口調で言うと、朱里さんは「すみません」と小声で言い、申し訳なさそうな顔をしました。


デリヘルでは本番行為は絶対にNGです。店側にとっては処罰の対象になります。ふたりきりの密室でのことですから、タレコミでもないかぎりなかなか発覚することはないのですが、まさかこんなかたちで本人の口から告白されるとは思いもしませんでした。


通常、本番行為が発覚したときは解雇するというのがKさんの方針でしたが、朱里さんの場合は体験入店で、まだ従業員名簿にも載っておらず、源氏名も仮のものです。


彼女から引き続き当店で働いてみたいという意思表示があったので、今回は特別に厳重注意で済ますことにしました。


しかしその後、彼女が出勤してくることはありませんでした。次の出勤日に姿を見せなかったため連絡すると、彼女から「もうやめます。店長お元気で~、さようなら~」というメールが送られてきました。

店長が売上金を持ち逃げした!

忘年会シーズンになり、少しは客足も増えるかなあと思いましたが、たいした変化はありませんでした。


いっぽう、酒屋の配達のほうは忙しくなり、私はデリヘルの仕事を早上がりさせてもらうこともありました。


ある日の夜遅く、酒屋の配達所で先輩従業員とふたりで待機していると、誰かがドアをノックしました。出て見ると、Kさんが立っていました。


「えらいことになったわ。田中が金を持ち逃げしよったんや」

「ええっ!」


その日は遅くまで勤務するキャストがいなかったため、Kさんが普段より早めに事務所へ売上金の回収に行くと、店長の田中の姿がなく、金庫が空っぽになっていたのだといいます。


電話をかけると着信拒否になっていて、彼が持ち逃げしたに違いないと考えたそうです。


「あんた、田中に電話してみてくれんか?」

呆然とする私にKさんが言いました。私は慌てて携帯電話を取り出しました。


「ダメです。つながりません」

私のほうも着信拒否されていました。


「警察に通報したほうがいいんじゃないですか?」

「いやいや、警察に言うたかて見つからんわ」


Kさんは面倒くさそうな顔をすると、「まあ、たいした金額でもないし、あんな奴のことは、もうどうでもええわ」と吐き捨てるように言いました。

忘れた頃に突然やって来る(その2)

店長の田中さんが行方をくらましてからは、Kさんが常勤するようになりました。年が明けて寒さがいっそう厳しくなってくると、店の売り上げもちょっとずつ落ちていきました。


ある日、私がパソコンで作業をしていると、1通のメールが送られてきました。タイトルに「Re:」が付いていたので、誰かからの返信だろうと思い、すぐに開いて見ました。


「はいっ!お待たせしました!今からでも入店できるでしょうか?」


なんの前置きもなくそれだけ書かれた文面。


送り主を見ると、以前、面接希望で写真付きのメールを送ってきた女性からでした。極端なぽっちゃり体型だったため、やんわりお断りした、あの女性です。


開いた口が塞がらないとはまさにこのことです。この人は気が狂っているのかと思いました。私にはちょっと受け止めきれない状況だったため、すぐにKさんに助け舟を出しました。


Kさんは大笑いすると、私の肩にぽんと手を置き「あんたも大変やなあ」と言いました。


「こういう商売してるとな、おかしな人も出てくるんや。まあ、そのうち慣れるわ」

Kさんはそのメールには返信する必要はない、放っておいたらいいと言いました。

別れ

2月の終わり頃になって、私はデリヘルの仕事を辞めさせてもらいたいとKさんに言いました。


勤めていた酒屋の店主が急病で入院することになり、私はまたフルタイムで働かなくてはならない状況になったのでした。


Kさんはすぐに納得してくれました。もともと1年だけという条件で始めたデリヘルの仕事でしたから、どうせ春には辞めることになっていたはずでした。


「どっちにしても、あんたとはこれからも顔を合わすことになるからなあ」

「そうですねえ。週4くらいで配達に行ってますから」

私たちは顔を見合わせて笑いました。


「たまには客として遊びに来たらええがな」

「はい、気が向いたら…」


最後の勤務が終わると、Kさんはボーナスだと言って、給料に少し色を付けて渡してくれました。



デリヘル『BJスーツ女子クラブ』は4年ほど営業を続けたのち、閉店しました。Kさんはセクキャバの経営からも手を引き、店を知人に譲りました。


その頃には私も酒屋の仕事を辞めていて、それきりKさんとは疎遠になってしまいました。

その後の10年

私がKさんのデリヘルで働いたあの年から、すでに10年以上が経ちました。


コロナ騒ぎの真っただ中、私はあのデリヘル店で働いていたある人物と再会しました。


千春さんです。客とトラブルを起こしたり、スタッフと喧嘩になって事務所内で大暴れした、あの女性です。


私はとあるスーパーで買い物中に彼女を見かけました。緊急事態宣言が発令されているさ中、彼女はマスクも着けず大声で携帯電話で話しながら店内へ入ってきたのでした。


買い物客の多くが彼女に訝しげな目を向けたり、迷惑そうな顔をしていました。


相変わらずトラブルメーカーぶりを発揮している彼女を見て、私は溜息をつかずにはいられませんでした。


レジに並んでからも、彼女は大声で通話を続け、電話の相手に対して暴言を吐いていました。


「それって営業妨害ですよね?そこまでして辞めさせたいんですかっ!」


そんなことを口走っていた彼女。またしても勤務先とトラブルになっていたのかもしれません。


レジで私の前に並んでいた丸々と太った大柄な白人男性が、そんな彼女の様子に困ったような表情を浮かべ、何度も首を横に振っていました。


ふと見ると、その白人男性の買い物かごには大量のチョコレートバーとコーラの2ℓペットが10本くらい入っていました。


私は思わずクスッとしてしまいました。そりゃ太るわ…。


彼女の無神経きわまりない迷惑行為で不快な気分にさせられた私でしたが、最後にその白人男性にちょっと救われたような気がしました。



Kさんについては、あれから何度かうわさを耳にしています。


焼きいも屋を始めたとか、日本橋で裏DVDの販売をしているとか…。そのあと知人と共同で不動産業を始め、ホームレスに生活保護を受けさせて自身が管理する物件に住まわせたうえ、支給された保護費の上前をはねるという詐欺行為をしているとか…。


今頃はどこかの刑務所に入っているらしいとか…そんな話も聞きます。


実際のところはよくわかりませんが、まっとうな生き方はしていないような気がします。


いま振り返ると、なかなかアクの強そうな人たちばかりと出会ったデリヘル勤務の10か月間だったなあと、そう思わずにはいられません。


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当コラムコーナーは、実話もフィクションも入り混じっています。読み物エンターテイメントとしてお楽しみいただく目的で掲載しており、記事の行為を推奨したり、犯罪を助長するものではありません。

この記事を書いた人

なかぞの

大阪府生まれ。22歳で文芸同人誌に参加。文学・アート系雑誌での新人賞入選をきっかけに作家業をスタート。塾講師、酒屋の配達員、デリヘルの事務スタッフなど様々な職を転々としたのち、現在はフリーライターとして活動中。足を踏み入れるとスリルを味わえそうな怪しい街並み、怪しいビルの風俗店を探し歩いている。

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