これは、私がデリヘルで働いていたときに知り合った広告代理店の営業マンから聞いた実話である。
そのベテラン営業マンが私に聞かせてくれたのは、大阪国際空港(通称:伊丹空港)を間近に臨む畑地帯の中にぽつんと立っていたという売春小屋の話だった。その生々しい話に私は引き込まれてしまった…。
以下の文章は、彼の述懐をそのまま漏らさず記録したものである。
空港周辺の町並みは不気味な静けさ
1998年8月上旬、私は風俗店経営者のM氏に案内され、大阪の豊中市へ向かった。梅田から阪急電車に乗り、宝塚線の「曽根」という駅で降りた。
目的地は駅から1.5㎞ほど歩いたところだとM氏から聞かされ、真夏の炎天下を歩くのを億劫に感じた私は、車で行ったほうがいいのではないかと提案したが、M氏は「町の様子を見て歩くのも風俗遊びのうちですわ」と言って譲らなかった。
伊丹空港の近くに、地元住民や一部の限られた愛好家のあいだでしか知られていない売春小屋があるという話をM氏から聞かされ、興味を持った私は、是非とも案内してほしいと願い出たのだった。
「あんまり触れ回ってはいけない話なんやけどねぇ」とM氏は最初しぶっていたが、私が、風俗広告の営業マンとしてそういった裏風俗のほうも勉強しておきたいと言うと、彼は苦笑いを浮かべ、「あんまり口外せんといてよ」と言って承諾してくれた。
午後3時。35度を超える猛暑の中、私は汗だくになりながら歩いた。M氏は暑さにめっぽう強いようで、ときおり立ち止まっては、雲ひとつない真っ青な空を見上げて清々しい表情を浮かべていた。
「ここに昔、バッティングセンターがありましてなぁ。ワシも若い時分は野球が好きやったから、ここへたまに練習に来てましたわ」
マンションが建っている場所を指さすと、M氏は「この裏手にヤクザの事務所がありましてん。バッティングセンターの土地もその組の持ちもんやったらしいですわ」と言った。
阪神高速池田線の下をくぐり、古い民家ばかりが密集している住宅街へと入って行った。どことなく不気味な静けさを感じさせる町並みで、人の姿を見かけなかった。
超低空飛行の旅客機が、耳をつんざくような轟音とともに背後から迫ってきた。私は思わず身をかがめた。空港はすぐそこだった。
小さな工場ばかりが建ち並ぶ場所に出た。その向こうに高い土手があり、まばらに人の姿が見えた。
「千里川の土手ですわ。あの向こうが空港です。ちょっと行ってみましょ」
M氏は70歳近い年齢を感じさせないきびきびとした足取りで、土手を登って行った。
畑の中にぽつんと立つ売春小屋
「裏風俗を体験しに来たのに、なんで飛行機を見に行かなあかんねん」私は少しうんざりしたが、とりあえずM氏のあとをついて行った。
散歩中の地元住民と思しき老人や、若いカップルが土手の上から空港を眺めていた。先ほど私たちの頭上を通り過ぎて行った旅客機が、ちょうど停止線の前で停まるところだった。他に2機が駐機していた。
「ちょっと、こっちを見てください」
M氏が空港と正反対の方角を指さした。
「あそこにプレハブ小屋が立ってますやろ?あれがそうですわ」
千里川の土手から町並みを見下ろすかたちになった。先ほど通ってきた小さな工場ばかりが立ち並ぶ一角の左手に、だだっ広い畑地帯があった。
作物が植えられている様子はなく、ところどころ雑草が茂っていた。端のほうに一か所だけ水を張った田んぼがあった。
荒れた畑の真ん中にぽつんと一軒、小屋が立っていた。売地の上に不動産屋が営業用に建てている、あんな感じの小さなプレハブ小屋だった。
「あれが、例の売春小屋ですか?」
私は声をひそめた。M氏がうれしそうな顔でうなずいた。
私たちは土手を下り、畑地帯のほうへと向かった。
待合室は畦道の真ん中
工場が立ち並ぶ一角を抜けて畑地帯へ出ると、すぐにプレハブ小屋が見えた。土手の上から見たときはわからなかったが、小屋は思っていたより奥行があり、6畳以上ありそうだった。
正面へ回ると、小屋の扉から少し離れたところに労務者風の男が所在なげに煙草を吹かしながら立っていた。
「先客がおりますなぁ」
M氏が言った。
「こんな畦道の真ん中で立って待つんですねぇ」
私が言うと、M氏はおかしそうに笑った。
「待合室なんてありませんからなぁ。ほな、ワシらも並びましょか」
M氏と私が労務者風の男の隣に並んだとき、小屋の扉が開いて若い男が出てきた。チンピラ風のその男は、私たちと目を合わさないよううつむき加減に、足早に立ち去って行った。
女が中から顔を出し、「どうぞー」と手招きしながら声をかけた。ぱっと見た感じ30代前半くらいの器量のいい女だった。薄い浴衣のようなものを羽織っていた。
労務者風の男は煙草を地面に投げ捨てると、足で踏み消し、せかせかと小屋の中へと入って行った。
料金は20分10000円だと聞かされていた。「ちょんの間」と同じシステムだとM氏は言った。後ろがつかえていなければ延長できる場合もあるそうだが、基本的には1回射精したら
終了だということだった。
開始から10分足らずでフィニッシュ
15分ほどで私たちに順番が回ってきた。
女に見送られて、労務者風の男が出てきた。興奮しすぎたのか、もともと血圧が高いのか、男は顔を真っ赤にし、額に大粒の汗をかいていた。
「次の人どうぞー」
女が私たちのほうへ声をかけてきた。M氏は私に順番を譲ってくれた。炎天下でこれ以上待つのはつらかったので、私は内心ほっとした。
女に手を引かれ、私は小屋の中へ入った。女の体から微かに香水の甘い匂いがした。エアコンのひんやりとした風が心地よかった。
もっと殺風景な室内を想像していたが、違った。箱ヘルのプレイルームなんかよりも広々としていて、床には固いカーペットが敷いてあった。ちょっとした飾り気もあり、ひとことで言うと「女の子の部屋」だった。
短期間ならここで生活できそうだと私は思ったが、トイレもシャワー設備も見当たらなかった。女の自宅はこの近くにあって、そこから通って来るのだろうか。
「お兄さん、初めてですかぁ?」
女がニコッと笑った。ハスキーな声をしていた。水商売上がりだろうか。ひょっとすると見た目よりも年がいってるのかもしれない。
私が初めてだと答えると、女は「お代はこの上に置いてくださいね」と、引き出しの付いた小さなキャビネットを指さした。
私が10000円札を置くと、女はそばにあったU字型の手のひらくらいある大きな磁石を札の上に載せた。
「服ぬいでください。あんまり時間ないですからねー」
女はゆったりした口調で話したが、どこか相手に隙を与えないような押しの強さが感じられた。
おしぼりを渡され、私は股間とイチモツを丁寧に拭った。飲食店で出てくるのと同じようなビニール包装されたおしぼりだった。
この女がひとりで店を切り盛りしているのか、あるいは他に事実上の経営者がいて、プレイ料金の何割かがこの女にバックされる仕組みになっているのだろうか…。仕事柄、私はそういった裏側の事情が気になって仕方なかった。
女は羽織っていたものを脱ぎ、全裸になった。ほっそりとした体つきに見合わないボリュームのある乳房をしていた。
女は自分の股間にローションを塗った。陰毛が薄いせいで割れ目がくっきりと見えていた。
「こちらへどうぞー」
女は私の手を引き、ベッドへと誘った。
私は最初から女の乳房にむしゃぶりついていった。「ちょんの間」ではゆっくり前戯を楽しんでいる時間の余裕はない。
挿入し、射精する。その一瞬の快楽を味わうためだけにあるような場所だと、私は思っている。人肌が恋しくて、女と触れ合う時間が欲しいのであれば、もっとべつのジャンルの風俗へ行くほうがいいだろう。
乳房を愛撫しながら乳首を舌で転がしても、女のリアクションは薄かった。私は枕元に置かれたコンドームを装着すると、正常位で挿入した。
「あぁっ…」
私がゆっくりと腰を動かすと、女は目を閉じ、ときおり吐息のような弱々しい声を漏らした。
「あぁ…あっ…あっ…あぁん…」
腰を振るスピードが速くなるにつれ、女の吐息のような声が徐々に喘ぎに変わっていく。情欲をそそる甘ったるい声に刺激され、私の興奮は一気に高まっていった。
大きくM字に開いた女の股間に何度も激しく腰を打ち付け、私はフィニッシュした。私がペニスを引き抜くと、女は両脚を伸ばし、ぐったりと体を横たえた。
公園のトイレや海辺の岩陰でセックスする女たち
プレイ開始から10分も経っていない気がした。ほとんど前戯もなく、挿入から射精までもあっという間だったが、それなりに満足感はあった。
畑の真ん中に立つプレハブ小屋で、こそこそ隠れて悪いことをしているような背徳感や緊張感があって、それが刺激になっていたように思う。
女を求めてこんな人けのない辺鄙な場所までやって来たことに、私はスリルを感じていたのかもしれない。
「町の様子を見て歩くのも風俗遊びのうちですわ」とM氏は言っていたが、町中を歩かずにここまで車を乗りつけていたら、スリルも味わえなかったかもしれないなと、私は思った。
「ありがとうございました。また来てくださいね」
女に見送られ、私はプレハブ小屋を出た。
M氏が缶コーヒーを手渡してくれた。近くの自販機で買ってきたのだろう。よく冷えた缶コーヒーを私は一気に飲み干した。
M氏が小屋の中へ入るのを見届けて、私は土手を登って行った。畑地帯の向こうから2人連れの男たちが歩いて来るのが見えた。新たな客だろうか。
私は金網の柵に寄りかかり、空港とその向こうの景色を眺めていた。近いうちにまたここへ来てみたくなった。
ここの売春小屋と同じような商売をしている女が、かつては日本全国のあちこちにいたし、今でも少なからず残っていると、M氏は言っていた。
自宅へ客の男を連れ込む女もいれば、公園のトイレや海辺の岩陰、町工場の裏など人目に付かない場所で客を取る女もいるそうだ。
今後もM氏の教えを乞うて、さらに「裏風俗」を開拓していきたいと、私は思った。