いまや世界中を巻き込んだ重大事件にまで発展してしまった新型コロナウイルス感染症。
いっこうに収束の兆しを見せず、現在もまだ感染拡大は続いている。
そんなさなか、中国人風俗の世界で妙な動きが出てきていることをつかんだ。
なにぶんコロナ禍ということで、たいした調査はできなかったが、私なりに気づいたことや、関係者から得られた貴重な情報を、ここで可能なかぎり紹介したいと思う。
大阪メトロ沿線の、とあるエリアにて。
2020年11月某日。大阪市内は季節外れの暖かさ。
小春日和となった月曜日の朝、私は所用のため自転車で最寄り駅へと向かっていた。河川敷公園で大がかりな改修工事がおこなわれているせいで、大型のダンプカーが頻繁に行き来していた。人通りはまばらだったが、新型コロナ第3波の影響が出ているのかどうかは、歓楽街にネオンライトが灯り始める時間帯まで待ってみなければわからなかった。
線路沿いの道を走っていると、前方を若いカップルが歩いていた。
男のほうが女の尻に手を伸ばし、執拗に撫でまわしていた。
女が男のほうを向いて何か言ったが、嫌がるそぶりは見せず、その横顔からは、むしろ男の行為を楽しんで受け入れているようにさえ見えた。妙なカップルだな、と私は思った。
自転車で追い越しざま、ふたりのほうをチラッと見てみた。男は20代なかばくらいだろうか。黒縁メガネをかけていて、どことなくオタクっぽい雰囲気があった。
女のほうは、一見して中国人だとわかった。清楚系の美人顔で、そこそこ背が高く、服装もそれなりにあか抜けている感じだった。
「中国エステの女かなぁ?男は常連客?」
そんなことを考えながら、私は駅の高架下の駐輪場へと入って行ったが、どこか腑に落ちないものがあった。
公共料金の支払いをするためにコンビニへ入ろうとしたとき、先ほどのカップルが踏切を渡ってこっちへ歩いてくるのが見えた。私はコンビニに入るのをやめ、入り口付近に立って、ふたりの様子をうかがった。
ふたりはまっすぐコンビニのほうへと歩いてきた。
1階に歯医者が入っている古いマンションの前まで来たとき、男が急に立ち止まり、女の腕を引っ張って体を引き寄せたと思うと、何の躊躇もなくキスをした。女は驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔になり、こんどは自分のほうから顔を近づけていった。
男が振り返り、誰を見るでもなくニヤッと笑った。最高のキスシーンを見せつけてやったと言わんばかりの得意げな表情だった。
ふたりはコンビニの前を通り過ぎると、信号が赤に変わりかけた横断歩道を渡ろうとしたが、すぐに女のほうが男の腕をとって引き留めた。
女がカーディガンを脱ぎ、提げていたバッグに入れた。Tシャツの薄い生地を通してブラジャーのラインが浮き出ていた。スカートは短くタイトで、下着のラインまでくっきりと見えた。ストッキングを着けていない脚は、すごく形が良かった。
男がまたしても女の尻に手を伸ばした。近くに何人か人がいるにもかかわらず、平然と女の尻を撫でまわした。中年のサラリーマン風の男がその様子を見て苦いを顔をした。
女もさすがに恥ずかしくなったのか、男の手を押さえ、行為をやめさせた。
信号が青に変わると、私は少し距離をとってふたりのあとをついて行った。自分の所用は後回しにすることにした。
その中国人の女がいったい何をしているのか、どうしても気になったのだ。いちおうチャイエスフリークとしては、エステや店の女の子に関する情報はつかんでおきたかった。男のほうは正直どうでもよかった。おそらく自分のことを女の彼氏だと勘違いしている常連客のひとりだろう。
ふたりは横断歩道を渡り切って、さらに駅の改札口の前を通り過ぎた。
コインパーキングの先の、小さなオフィスビルが並んでいるあたりで立ち止まると、女が身振りで男を促し、細長いビルの中へと入って行った。
「レンタル空間」
すりガラスのはまった入り口の扉には、縦書きでそう書かれてあった。
このビルには狭いレンタルルームが10部屋ほどあって、近隣のホテヘルやデリヘルが利用していたが、たしか数年前に閉鎖されたはずだった。
少し待って、ふたりが戻ってこないのを確認すると、私はビルの入り口に手をかけてみた。
扉は中から鍵がかかっていて開かなかった。
「これは何かありそうだなぁ…」
私はビルの裏側へ回ってみようとしたが、背中合わせに建っているビルとの間にほとんど隙間がなく、調べてみることはできなかった。
来た道を引き返しながら、私はあの中国人の女と「レンタル空間」について少し調査してみようと思った。この近辺の中国エステや風俗関係に詳しいふたりの人物を当たってみることにした。
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ハルビンから来た女
中国人の女のことはすぐに調べがついた。やはり中国エステの女だった。
ただ、私が考えていたのと違って、彼女は単に店の女の子のひとりではなく、オーナーママだった。しかも、半年ほど前に忽然と営業を辞めてしまった『B』という店の2代目ママだということだった。例の「レンタル空間」同様、こちらもいつの間にか営業を再開していたというわけだ。
情報を提供してくれたのは、私の知り合いの朋(仮名)という中国人女性で、彼女もまた、同じエリアで中国エステを経営している。朋さんの話では、『B』の2代目ママである凌(仮名)は黒竜江省のハルビン出身で、少し前までは博多の中国人クラブでホステスとして働いていたそうだ。
「あの子は前からエステやりたかったね。でもお金ないからできない言ってた」
「じゃあ、誰かがお金を出してくれたってこと?」
「そう。博多にいたときのお客さんよ。でもタダでくれたじゃないよ。貸してくれた」
『B』の初代ママが店を売却したがっているという話を聞いた凌ママは、ひょっとしたらこれが自分にとって最後のチャンスかもしれないと思い、クラブの客に頼んで金を借りたのだという。しかし、その直後に新型コロナという想定外の出来事が起きてしまい、店の経営状態は苦しくなり、借金の返済も遅れがちになっていった。
「客らしい男とレンタルルームへ入って行ったけど、あれも営業のうちなのかなぁ?」
「さあ、どうかなぁ…。レンタルルームの話は聞いたことないねぇ…」
凌ママは日本へ来て、かれこれ15年になるそうだが、当初思い描いていたような安定した暮らしはいまだに実現していないと、朋さんはいう。
「あの子は悪い男に引っかかってばかり。子供ができて堕ろしたこともあった。借金もいっぱいある。まだ500万くらいあるよ!今の旦那はダメ。ぜんぜん仕事しない!」
本人は一刻も早く永住権を取得したいと思っているようだが、現在の夫(おそらく偽装結婚だろう)が極端に経済力のない人物で、なかなか審査に通らないのだという。離婚してべつの日本人男性を探す方法もあるが、彼女自身これまでに2度の離婚歴があり、これ以上離婚と再婚を繰り返すと、かえって審査に通りにくくなると思い、現状に甘んじているのだそうだ。
「旦那の借金まで返してる。あの子はかわいそうよ」
朋さんは表情を曇らせると、小さく溜め息をついた。
凌ママは500万円もの借金を抱えながら、さらに中国にいる両親に毎月一定額の仕送りまでしているという。安定した生活を求めて日本へ来たのに、余計に苦しくなってしまっているように思える。
私は何だか切ない気持ちになり、興味本位で探偵ごっこなどしている自分に少しばかり罪悪感を覚えた。
薄暗い階段を降りておもてに出ると、いきなり激しい怒声と喚き声が聞こえてきた。
通りの中ほどの、ちょうど立ち飲みをやっている酒屋と格安チケット店が並んでいるあたりがその現場だった。
ひとりの男を、4人の男たちが取り囲んで殴る蹴るの暴行を加えていた。暴行を加えているほうも加えられているほうも、一見してヤクザ者とわかる風貌をしていた。
ヤクザどうしの喧嘩なんて今どき珍しいなと思って見ていると、酒屋の中から60代くらいの小柄な女が携帯電話を耳に当てながら出てきて、暴行の現場にちらっと目をやると、慌てた様子でまた店内に引っ込んだ。
暴行を受けていた男が路上に倒れると、4人の男たちは一斉に相手を踏みつぶしにかかった。遠巻きに見ていると、どことなく、大量の空き缶を踏みつぶして大はしゃぎしている小学生のように見えた。
いつまでもその場に立っていてもしょうがないと思い、私は来た道をまた大通りのほうへと引き返した。
FF第1ビルの前まで来ると、当ビルのオーナーの水田(仮名)が、ほうきと塵取りを持って通りを掃除していた。毎日この時間帯になると、ビルの周辺を掃除するのが彼の日課なのだった。
「おはようございます」
「おう、おはようさん」
水田は私を見ると、顔をほころばせ、細い目をしばたたいた。
先ほどの「レンタル空間」のことを話してみた。水田は宙を見上げてしばらく考えたあと、こう言った。
「あのビルなぁ、4丁目の焼き肉屋の社長が買いよったんや。○○っちゅう焼き肉屋があるやろ?あそこや。中のレンタルルームもいっしょに買い上げよったらしいわ」
「じゃあ、オーナーが変わって営業再開したってことですか」
「そういうこっちゃ。前のオーナーちゅうのは、がめついオバハンでな、ホテルの許可を取らんと風俗客を宿泊さしてたらしいわ。それで、これやがな」
水田は手錠をかけられたジェスチャーをして見せ、苦笑いを浮かべた。
中国人の女と客らしい男があのビルに入って行ったことを話すと、「中国エステがレンタルルームを使うてるいうのは聞いたことないけどなぁ…」と首をかしげ、「レモンのママあたりが、何か知ってるんとちゃうか?」と言った。
私は水田に礼を言うと、その足で『レモン』へ向かった。
『レモン』はこのあたりではいちばん老舗の中国エステで、あちこちの店で遊び歩いているコアなチャイエス好きのあいだで根強い人気があった。歓楽街から少し離れた辺鄙な場所にある、汚いビルの地下1階に店を構えているのだが、どこから探してくるのかレベルの高い女の子ばかりが揃っていて、代替わりしながらも20年近く営業を続けているのだった。
じつは、私は『レモン』のママとは会話らしい会話もほとんどしたことがないのだが、店長の大貫(仮名)とはけっこう親しくしていた。大貫は、中国エステや中国人ホテヘルなどを運営している会社の社員で、これまでいくつかの系列店で店長や事務スタッフとして働いていた。私も行く先行く先で彼と顔を合わせていて、お互い年齢が近かったこともあり、いつしか客とスタッフの壁を越えて話ができるくらいまで距離が縮まっていった。
「店長いてる?」
店の女の子に声をかけ、ソファーに座って待った。5分くらいして大貫が出てきた。いつものように無精ひげを伸ばし、はき古したジーンズによれよれのセーターという恰好だった。
昼寝でもしていたのか、あくびを噛み殺してばかりいる大貫に、『B』の2代目ママとレンタルルームのことを聞いてみた。
「ああ、あれね。最近けっこうウワサになってるよ。凌ママが個人営業してるって」
「店の営業とはべつなんですか?」
「うーん、たぶん店の経費にあててるとは思うけど…。他の女の子も、ときどき同じようなことやってるらしいよ」
「そうなんですかぁ…。やっぱり、コロナの影響で経営がしんどいんですかねぇ」
「それは絶対あるよ。うちの店だってしんどいもん。今日もまだ1人しかお客さん来てないんだから」
言って、彼は大きなあくびをした。
しばらく世間話をしたあと、私が店を出ようとすると、女の子数人が腕を引っ張って引き留めようとした。
「お兄さん、マッサージしよ。30分だけ。きもちいいよ」
私が断ると、女の子のひとりが「お兄さんケチね!」と言った。
すると、他の女の子たちもそれを真似て「ケチ!ケチ!ケチ!」と言い出し、さらに調子づいて「アホ!間抜け!下品!」とあからさまな悪口まで言い出す始末。
日本語をよく理解せずに使っているとはいえ、「アホ、間抜け、下品」はさすがに心外だったので、私は仕方なく30分だけマッサージを受けて帰ることにした。
地下風俗化がすすむ中国エステ
『レモン』で大貫から聞いた話によると、新型コロナの感染が拡大してから、『B』の凌ママのように〝闇営業〟を始める中国人エステ嬢が急増しているという。
凌ママがわざわざレンタルルームを使っているのは、おそらく売春をしているからだろうと、大貫は話していた。ビルの入り口に鍵がかかっていたことを考えると、ビルのオーナーやレンタルルームの管理者も、売春に一枚噛んでいる可能性が高い。
また、日本人風俗を真似て、お散歩コースや痴漢プレイコースなどを取り入れている中国エステもあるのだとか。凌ママが公衆の面前で客の男に尻を触らせていたのも、そういうプレイの一環だったのかもしれない。
新型コロナの影響でダブルワークを始めた中国人風俗嬢は多い(日本人風俗嬢も同じではないだろうか)。昼間の仕事と風俗業を掛け持ちするパターンもあれば、出会い系やデートアプリを使って客を探す女性もいるし、中には違法な手段で金を稼ぐ女性もいる。
エステの健全店から本番ありの違法店へ移籍する中国人女性も少なくないらしい。コロナ禍とはいえ、違法店のほうの客の減りは極端に大きくはないと聞く。新種のウイルスが蔓延しようとも、本番行為をしたがる男(我慢できない男)は多いということだろうか。
大貫の話では、新型コロナの煽りを受けているのは、ほとんどが個人経営のエステだという。『B』も凌ママが単独で経営している。共同経営者や金主がバックに付いているという情報はない。
対して、会社の後ろ盾がある中国エステは、そう簡単に危機的状況に陥ることはない。
『レモン』を運営し、大貫が社員として所属している会社もそうだが、日本で中国エステを経営している法人というのは、大きな資力を持っている場合が多い。中国系資本で成り立っている会社がほとんどで、そのうちの半数以上がチャイニーズマフィアとのつながりがあると言われている。
※(チャイニーズマフィアが直々に日本へ来て会社を経営することはほとんどない。その下部組織である半グレ集団などが実働部隊として日本国内で活動しているのだ)。
風俗業だけでなく、物品の輸入販売やコンサルティング業務などにも手を広げている会社が多く、新型コロナの影響は出ているものの、大きな打撃は受けておらず、まだまだ余裕があるのが、大貫の言葉の端々からも感じ取ることができた。
運悪く経営不振に陥って廃業する店があっても、従業員は経営が安定している系列他店へ振り分けられる。それは大貫のような日本人スタッフも同様で、人員の配置転換がおこなわれるだけで、ただちに職を失うということはないと聞く。
このたび、ふとしたことから中国人エステ嬢の闇営業の実態を垣間見ることになったわけだが、新型コロナ感染拡大は現在も進行中である。それが収束しないかぎり、そういった闇営業のようなものは、まだまだ増え続けるに違いない。店舗を介さない売春行為やその斡旋などが増えれば、やがて中国エステの一部が地下風俗化していく可能性がある。
インターネット上で簡単に売春の交渉や斡旋をおこなうことができるようになっている昨今、地下風俗化というワードは特別新しいものでも何でもないが、中国エステまでもがそういう形態を取り始めると、この国の風俗産業が何だか混沌としてしまうようで怖い。
一刻も早く、この状況が収まってくれることを切に願う。