数年前、大阪府内でとあるタイ式マッサージ店の経営者と男性従業員が売春防止法違反の容疑で逮捕されました。
その事件自体はとくに珍しいことでもないのですが、今年に入って、その店にまつわるちょっと面白い裏情報を小耳にはさみましたので、今回はそれをご紹介したいと思います。
急増する違法タイ式マッサージ店
前回のコラム
の中でも少し触れましたが、ここ5年くらいのあいだで違法な営業をしているタイ式マッサージ店が増えてきています。
働いているのは、留学ビザなどの短期在留資格で入国した女性がほとんどだそうで、経営者も短いスパンで女性を入れ替えながら営業を続けているケースが多いと聞きます。
背景には、タイやベトナムなど東南アジア諸国に対する留学ビザ発行の緩和があると考えられます。看護師や介護職などで外国人労働者を積極的に受け入れていこうという国の政策により、東南アジア諸国の学校や役所などでは、日本への留学を募る広告が以前より目につくようになってきているといいます。
しかし、留学ビザで来日して日本語学校を卒業したすべての外国人が、きちんと資格を取り、介護職などに就くわけではありません。また、定職に就いたとしても、親や兄弟の生活を支えるために祖国へ仕送りしている人だと、どうしても生活が苦しくなり、他にアルバイトをしなくてはならなくなる場合があります。その中には、(女性だと)違法マッサージ店で売春をする人も出てくるのです。
日常的ではない違法行為
経営者と男性従業員が逮捕されたというその店は、もともとは健全なタイ式マッサージ店で、摘発されたときも日常的に売春がおこなわれていたわけではなかったようです。
しかも、在籍していたタイ人女性全員が売春行為をしていたのではなく、そのうちの1人か2人だけが行為におよんでいたといいます。
そのため、売春行為をしている女性が出勤しない日は、違法性のない健全なサービスのみがおこなわれていたのです。
では、客はどうやって「売春日」を把握していたのでしょうか。
風俗をよく利用する人ならすぐに思い浮かぶのが、メルマガ、あるいは在籍嬢と直で連絡を取り合うという方法だと思います。
ところがこの店は、悪ふざけとも思える、回りくどい方法をとっていたのです。
路上に落ちている下着
店が入っていたのは3階建ての小さなビルで、各階に間取りの狭い部屋が一部屋ずつあるだけでした。店は3部屋すべてを借りていて、それぞれプレイルーム、待機所、事務所というふうに使い分けていたようです。そのため、客と従業員以外の出入りがほぼ皆無だったのです。
そのビルは狭い十字路の角に建っていたのですが、ときどきビルの前の路上や、横の細い道に女性ものの下着が落ちていることがあったといいます。
真新しいものではなく、どちかというと着古した感じのブラジャーやショーツなどが、路上に落ちていたのです。
その近辺では、早朝に自治会の人たちが清掃作業をすることがあり、女性ものの下着が落ちているのをたびたび見かけていたため、自治会の集まりでも議題のひとつとして取り上げられるようになったというのです。
歓楽街の中でのことですから、ひょっとすると女性が何か事件に巻き込まれたのではないかと危惧した自治会が、近所の交番に通報したそうです。
ところが(警察がパトロールを強化したのかどうかはわかりませんが)、その後も相変わらず路上に下着が落ちていることがあり、自治会の人たちはさらに不審に思うようになったといいます。
じつは、その下着こそが、摘発されたタイ式マッサージ店が「売春日」を常連客に知らせるための〝暗号〟だったのです。
ビルの前の路上に女性ものの下着が落ちていた翌日に、売春がおこなわれることになっていたというのです。
なぜそんな分かりにくい、回りくどいやり方をしたのか。メールやLINEで知らせるといった、もっと効率のいい方法はあったはずです。
私が思うに、こんな馬鹿げた方法を実行していた人物は、よほど嬉しがりだったのでしょう。
推理小説やサスペンスドラマなどでトリックや暗号が出てくるシーンがありますが、そういうものに憧れていたのではないかと思うのです。
こんなダイイングメッセージみたいなものを見せられて、客はどんな気持ちになったのでしょう。そっちのほうが気になります。
報道されなかった余罪
そのタイ式マッサージ店が摘発された事件は、関西ローカルのニュース番組でも報じられ、従業員の男が連行されていく場面が映っていました。そのときの容疑は売春防止法違反でしたが、じつは他にも余罪があったそうです。
男性従業員が、来店した常連客に大麻や合成麻薬を販売していたというのです。
主にMDMAを販売していたそうで、まさかそれをキメた状態で売春をしていた客がいたとは思えませんが…。もしいたとしたら、違法風俗の中でもとくにヤバイ店だったということになります。
さらに、ドラッグのほうも売春と同じで、特定の日を設けて販売していました。
その販売日を常連客に知らせる方法も、あろうことか「売春日」を知らせるのと同じようなやり方だったのです。
売春のときは女性ものの下着が落ちていましたが、ドラッグの場合は、女性もののTシャツやワンピースだったといいます。
そういった女性ものの洋服を、ビルのベランダに吊るし、常連客が見て「販売日」だとわかるように目印にしていたのです。
これらの裏話を聞かされた私は、あきれかえってしまいました。とんだ茶番だと思いました。
下着や服を目印として置いておくという発想が、あまりに馬鹿げています。
売春のあっせんやドラッグの密売というハイリスクな犯罪行為をおこなっているわりには、発想も幼稚で、効率も悪いと思いました。
映画か小説の中で、秘かに不倫をしている男が、妻が留守にしているときにベランダに決まった色の手ぬぐいか何かを干しておき、それを目印に、不倫相手の女が家にやって来るというシーンがありましたが、そういう感じのことを、そのタイ式マッサージ店の従業員はやっていたわけです。
ただ、不倫と売春、ドラッグの密売では背負うリスクの大きさが違い過ぎます。もっと巧妙な手口でやったほうがバレない気がするのですが…。
それとも、そういう安っぽい手口を使ったほうが意外とバレないものなのでしょうか。
2025年に向けて
現在、2025年の「大阪・関西万博」の開催に向けて、大阪府下の歓楽街とその周辺エリアで浄化作戦が進められています。デリヘルやホテヘルといった性風俗店よりも、メンズエステや中国エステ、タイ式マッサージ店の摘発にとくに力を入れているようです。
エステの場合、性風俗店とは違って堂々と看板を掲げて営業できますから(通行人の目につきやすい。流れ客の利用をうながす)、そこで売春などの違法行為がおこなわれていると、取り締まりをする当局としては面白くないのでしょう。
大阪府では2019年だけで、すでに10数店のエステやマッサージ店が摘発されています。
中には、男性客の太腿の付け根付近をマッサージしたというだけで摘発されたメンズエステもあります。
太腿の付け根は以前から「グレーゾーン」と考えられていましたが、当局は目をつぶっていて、摘発の対象になることはまずありませんでした(別件逮捕の場合はありましたが)。
しかし、街のクリーン化という大義名分のもと、どんどん締め付けが強くなってきているようです。
また、昨年の3月頃から大阪市内(北区、中央区など)の歓楽街では、性風俗店の出店禁止区域が拡大されてきており、デリヘルのような無店舗型の性風俗店でさえ、以前より新規出店が難しくなってきています。
かつて1990年の「花の万博」開催に向けて大阪府下からソープランドが一掃されたように、今回もまた、大阪から数多くの店が姿を消すことになると思います。
すでにエステやマッサージ店がそのターゲットになっています。明らかに違法なことをしていて摘発されるのは仕方ありませんが、前出のメンズエステのようにグレーゾーンでもアウトとなれば、ぎりぎりのサービスを楽しみにしている男性客にとっては大きな打撃となりそうです。
2025年の「大阪・関西万博」が終わったあと、大阪のあちこちの歓楽街や風俗ビルが廃墟みたいになっていたらどうしようと、私は不安で仕方ありません。
ただでさえ風俗利用客の数は減少傾向にあります。今回のクリーン化をきっかけに、大阪から風俗店が軒並みに姿を消してしまうようなことにならないでほしいと、願うばかりです。