【痛客列伝】ええ加減キャバクラで彼女探しするのはやめてくれ

キャバ嬢がお客さんと接する中で、いつの間にか付き合っていることになっていたり、結婚する約束をしていたりすることは多々あります。キャバ嬢の中には、あえて「付き合っている」という言葉を出したりする子もいますが、そういう風に持っていかないように努力することが一般的です。

私も、淡い色恋から始まり、友営に移行することが一番良いと結論付けました。本当はフレンドリーに徹した接客をしたいのですが、それだけでは指名獲得率が下がってしまいます。最初のとっかかりとして、相手に気があるように見せるという色は、少し必要なのです。それが無ければ、フリーでついたわずか１０分程度の時間で指名を取ることはかなり厳しくなると思います。それは、芸能人レベルの美人であったとしても、です。

世間一般では“フィーリングが合う”ということで意気投合する場合もありますが、キャバクラでは偶然フィーリングが合う、ということはほとんどあり得ないと言ってよいと思います。男の人は「フィーリングが合って嬉しい！」と喜んでくれますが、合っているのではないんです。接客する側である女の子がフィーリングを合わせにいっているのですから。

岡山出身のタモツくんは、私が在籍していたお店のグループ店やその近辺で昔からよく飲んでいるようでした。年齢は４０前で、外見は独身ということもあってか、ちょっと若く見えます。ある程度年をとった薬丸裕英さんの目を細くしたような顔立ちです。

初回フリーでついた時に「ごめんね、今日は指名しないんだ。今日しゃべった女の子の中から、後で誰にしようか決めるから」と、トーナメント開催を宣告されました。しかし、指名を取る自信はありました。なぜなら、“自分はこういう子を求めている”ということを事細かに伝えていたからです。それはもう必死なほどに。

「お母さんが早く死んだからさみしいんよ～」「いっぱいメールしてくれる子がいいな」「明るくて楽しい子が好き」などなど、

見た目よりも行動へのリクエストが多い。そんじゃ聞いたまま実行すればいいだけやん、軽い軽い。無事指名を獲得し、タモツくんは私のエースだった時期もあります。職人さんなので収入は良いみたいで、いつも３セットはいてくれたし、同伴もよくしてくれました。

でも、最初の「誰にしようか選ぶ」というタモツくんの発言には、実は目的語が抜けていたのでした。彼が言いたかったのは、指名嬢を選ぶのではなく、“彼女”を選ぶ、ということだったのです。指名する＝彼女にするということだったのです。そんなメチャクチャな！

「付き合っている」と明言はしていませんし、されてもいません。しかし、話しているとまるで彼氏彼女であるかのような発言が目立ちます。「ん？」となる回数は増える一方です。しかしキャバ嬢のツライところは、そこで否定をすることができないことです。

タモツくん的付き合っている状態が続きますが、不思議なことに身体的接触を求められることはありません。かれこれ１年弱は休みの日に合うことも要求されず、「ホテルに行くよ」などと言われることもありません。しかし、それは彼の胸の奥に眠る警戒心のようなものの現れでした。

クリスマスに同伴する約束をしました。タモツくんから申し出てくれたのです。「クリスマスプレゼントは香水がいいな。その香水つけていれば、いつも美月と一緒にいれるみたいな感じするし」と自分へのプレゼントには注文を付けてくるものの、私へのプレゼントはフェンディのスカーフ一枚。微妙な顔をしていると「高いのはもうちょっとしてから、ね」と少し得意げな表情で言ってきます。もうちょっとしてから…それは多分、体の関係が出来てから、ということなのでしょう。

付き合っているようなことを言う。しかし彼女だとハッキリは認めていないから高い個人的プレゼントはしない。でもキャバクラにはかなりお金を落としてくれている。…わからん。矛盾だらけじゃないか。

そうこうしているうちに、いよいよ恐れていた事態が起きました。風俗の話から、それは始まりました。「昨日ホテル行ったんだ。誰と行ったと思う？美月の知らない女の子だよ。」「ふーん、そうなんだ」この時、どの対応が望ましいか即座に考えます。

①「キー！そんなの許さないナリ！」⇒「じゃあ美月、一緒にホテル行こうね」
②「そうなんだ…悲しい」⇒「じゃあ美月以外の女の子とは行かないようにするね」

…やめた。どうやって答えても、そっちに持っていかれるだろうな。

私の中でも、もう十分に稼がせてもらったし、「ややこしくなる前にそろそろドロンかな？」と思っていたということもあり、対応する気が失せました。「オレが風俗行って悲しい？美月がちゃんとオレとエッチするなら、もう行かないようにするよ」その後は、普通にヤキモチを焼くパターンで返答し、ラブラブな感じで終了しました。

でももうメンドイので、メールの頻度を徐々に落としていくことにしました。最終的にはタモツくんから「美月だけは信じてたのに！美月と結婚して幸せにしてあげようと思ってたのに！美月も他の子たちと同じなんだね！」と泣いた顔の絵文字満載での詰め寄りメールでピリオドを打ってきました。

タモツくんは、状況や立場をきちんと整理して理解する能力が乏しかったようです。もしくはあえて整理しないようにしていたか。「お見合いしろって言われるけど、オレにはそんなの合わないの。キャバクラの女の子とワーって楽しんでる時が本当のオレなんだ」自分はイケていると思っている。だから一般の女性は合わない。キャバクラにいる若くてカワイイ女の子と付き合えると思っている。

でも、何回もフラれたことがあるからそれなりに警戒心も持っており、個人的貢物で搾取されるのは嫌。でもキャバクラにお金を落とすのは構わない。はー複雑ですね。

人の価値は若さや外見の良し悪しで決まるわけではありません。しかし、やはり自分が世間からどういう目で見られているのか、どういう風に求められているのかを客観視することは必要だと思います。極度のカンチガイ野郎にならないために…。

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