塾講師時代の先輩Sさんから聞かされた話を、彼自身の回想録として書き記してみました。
今から30年ちかく前、まだ微かにバブルの残り香が漂っていた頃の大阪・大国町。当時、マンヘルのメッカだった大国町のとあるマンションでは、ほぼ全室がマンヘルだったといいます。今ではとうてい考えられないような話なのですが、あの頃は決して珍しいことではなかったそうです。
ピンクチラシの店に電話してみた
当時はマンションのポストにピンクチラシがよく入っていました。盆や正月などに帰省して1週間ほどポストを確認しないでいると、ゾッとする量のピンクチラシが溜まっていたことがありました。
そんなある日、部屋のドアの郵便受けに1枚のピンクチラシが入っていたのです。いつもはエントランスの集合ポストに入っていて、ドアの郵便受けに投函されていたのはその日が初めてでした。
僕はそのマンションの最上階に住んでいたのですが、わざわざ上まで上がってきて投函してくれるとはご苦労なこったなぁと、そう思っていると、次の日も、また次の日も同じ店のチラシが部屋の郵便受けに入っていたのです。
ちょっと気味が悪くなったのですが、ひょっとするとこれは何かの縁かもしれないという考えがふと頭をよぎり、僕はこのチラシの番号に電話をかけてみることにしたのでした。
当時はまだ独り身で、風俗は何度か利用したことがありましたから、風俗店に電話をかけることにそれほど抵抗はありませんでした。寒い日が続いていたこともあって、人肌のぬくもりが欲しかったというのもありました。
初めてのマンヘル
電話をかけると、女性のような高い声の、おとなしそうな口調のスタッフが出て、僕がチラシを見たことを告げると、「ご利用は初めてですか?」と聞かれました。料金の説明などをしてもらったのですが、電波が悪いのか、会話の途中に雑音が入り、聞き取りづらくなることが何度もありました。
携帯電話のアンテナを伸ばして狭い部屋の中を移動しながら電波の通りが良さそうな位置を探しましたが、いっこうに改善されませんでした。
それでも男性スタッフは丁寧に説明してくれました。僕はてっきりデリヘルだと思っていたのですが、実はマンヘルだったことがわかりました。当時、大阪で流行っていた「マンションヘルス」というやつです。
僕はそれまでデリヘルとちょんの間しか利用したことがなく、マンヘルのことをあまりよく知らなかったのですが、せっかくの機会だと思い、その店に足を運んでみることにしたのでした。店名は、ここでは仮に『スイートハニー』としておきます。
その日の夕方、地下鉄に乗って大国町まで行きました。駅から電話をかけると、わざわざスタッフが駅まで迎えに来てくれました。小学生かと思うような華奢で小柄な男性で、声の感じから先ほど電話に出たスタッフにちがいないと思いました。
色白で目が大きく、耳も鼻も尖った形をしているその男性。20代のように見えましたが、40代だと言われたらそんな気もします。女性のような高い声と独特のテンポで話す、ちょっと不思議な感じのする人物でした。宇宙人ではないかと思ってしまいました。
そのスタッフに案内され、店が入っているマンション(部屋数の多い低層マンションでした)の一室へ行くと、店長らしき50代くらいの白髪まじりの男性が応対してくれました。
そこは受付をするための部屋で、プレイルームはそこから100mほどの場所のべつのマンションにあるのだと言われました。
あとでわかったことですが、そのマンションは当時ほぼ全室がマンヘルのプレイルームになっていて、どの部屋でも朝から晩まで男女が絶え間なくエッチなことをしている、ある意味ファンタジーのような場所だったのです。
『スイートハニー』のプレイルームは3部屋あり、各部屋に女の子が1人ずつ待機しているとのこと。おすすめの子を聞くと、店長は「ユウさんが間違いないですねぇ」と言いました。
細身ながら胸はCカップあり、愛嬌があって人懐っこい性格の子なのだとか。「常連さんからの評判もかなりいいですよ」と言われ、僕はその「ユウ」さん(仮名)を指名したのでした。
マンヘル嬢に一目惚れ
いま考えると恥ずかしい話ですが、「ユウ」さんとの出会いは、そのときの僕には正しく運命的なものに思えたのです。
「こんにちわー、ユウと申します。よろしくお願いしまーす」
黒髪ショートのボーイッシュな感じの女性が現われ、にこっと微笑みかけてきました。僕は頭の中が真っ白になり、とっさに言葉が出てきませんでした。
彼女は表面がふわっとした白のニットに細身のジーンズを身に着けていて、柑橘系の香水がほんのりと香っていました。
おどおどしながら部屋へ入ると、ワンルームに可愛らしい絵柄の毛布が敷かれたベッドが置いてあり、1人暮らしの女の子の部屋ってこんな感じなんだろうなぁと思わせる、そんな雰囲気でした。女の子の部屋の中なんて見たことがなかった僕は、緊張しながらもたまらなく興奮したのを覚えています。
ベッドの前には横長タイプの炬燵がありました。僕がぼんやりと立ったままでいると、彼女が僕の肩にそっと手を置き、「どうぞ、座ってください。寒かったでしょう? 炬燵に入って温まってください」と言いました。
僕が炬燵に足を入れると、彼女も横に並んで入り、「う~ん」と言いながら体を密着させてきたのです。僕は思わずドキッとして、反射的に彼女から体を離してしまいました。
「えー、どうしたのー、逃げないでよー」と言い、彼女が僕をつかまえるように腕を回し、さらに体を密着させてきました。こういうシチュエーションは、これまでの風俗通いで慣れているはずだったのですが、なぜかユウさんの前では緊張してしまい、恥ずかしくてたまらなかったのです。
どうやら僕は、彼女に一目惚れしてしまったようでした。
炬燵でイチャイチャ恋人プレイ
まるで初めての彼女と初めてのエッチをするときみたいに、僕はドキドキしながらユウさんとキスをしたり互いの体を愛撫し合ったりして、温かい炬燵に入りながらイチャイチャする時間を楽しんでいました。
いま思えば、この炬燵に入って恋人どうしのようにふざけ合っている時間が何より楽しかった気がします。
「そろそろシャワー行きましょうかー?」
二人いっしょにその場で服を脱ぎ始めました。僕が彼女に背を向けて脱衣していると、
「ブラジャー外してほしいなー」
彼女が甘い声で言い、僕にすり寄ってきました。上下揃いの赤い下着姿で僕を見つめるユウさん。細い体に似合わない豊満なバストに僕の目は釘付けになり、下半身のイチモツはそそり立ち、はいていたトランクスははちきれんばかりに盛り上がっていました。
「あー、こんなに大きくなって……」
彼女が僕のトランクスをずり下ろし、そそり立ったイチモツを手でぐっと握りしめてきました。たまらなくなった僕は彼女にむしゃぶりついていき、ブラジャーもショーツも剥ぎ取ると、彼女をベッドに押し倒そうとしました。
「ダメダメ、まだだよ。シャワー浴びてからね」
彼女が僕の顔を包み込むように両の頬に手を当て、にこっと微笑みかけてきました。
「ご、ごめん」
僕は我に返り、彼女に謝りました。彼女が可笑しそうにクスッと笑いました。
お互い体を洗い流してさっぱりすると、彼女が壁に手をついていきなりお尻を突き出してきました。
「わたしのアソコに、お兄さんのチンコこすりけてほしい……」
彼女のいやらしい目つきと声色に僕は興奮を隠せず、そそり立ったイチモツを彼女の股間に突っ込むと、立ちバックの体勢でこすりつけました。
「あぁ~ん、気持ちいい~」
彼女の股間はすでに愛液でヌルヌルになっていて、ローションをたっぷり使ったときのような感触でした。僕は彼女の腰に手をそえ、必死に腰を動かし続けました。
「あぁっ、ダメ! イキそう! あぁぁん!」
彼女がひときわ甲高い声を上げたのと同時に、僕は我慢できなくなってフィニッシュしてしまいました。
彼女がガクガクと下半身を震わせながら、その場に崩れ落ちるようにしゃがみ込むと、僕は「はぁー」と大きな息を吐き、うしろの壁にもたれかかり、しばらく呆然としていました。
ベッドの上ではユウさんの体を隅々まで味わい尽くしました。頭のてっぺんから足の指先まで、じっくりと時間をかけて愛撫しました。女性の体をこんなに隈なく舐め回したのは初めてでした。
ユウさんは乳首が非常に敏感で、舌先で転がしてやると何度もイキそうになり、「乳首でこんなに感じたの初めて」と言って、いつも終わったあとしばらくはぐったりしていたほどです。
彼女のフェラチオは最高でした。僕はこれまでに味わったことのない巧みなテクニックに翻弄されっぱなしでした。
彼女の舌はまるでそこだけが独立した生き物のように怪しく蠢き、僕のイチモツを淫らに狂わせました。初めて彼女のフェラチオを体験したとき、僕は30秒も持たずに彼女の口の中に放出してしまいました。
とつぜんの別れ
それから僕は何度もその『スイートハニー』というマンヘルへ通い、ユウさんを指名し続けました。安月給の身でしたから、そんなにしょっちゅう遊びに行けたわけではありませんが、それでも毎月の食費を削りながら月に1回は彼女に会いに行っていたと思います。
春になり部屋から炬燵がなくなると、僕たちはカーペットを敷いた床に寝転がって本当の恋人どうしのようにイチャついていました。ラブホテルだとなかなかこんなことはできません。当時のマンヘルにはどこか普通の生活感があり、僕はそれを味わうのが好きだったのかもしれません。
季節が変わりだんだん薄着になっていくと、彼女の魅力的な体つきを目で楽しむことが増えてきました。Tシャツ越しの豊満な胸元、ブラジャーのライン、ノースリーブのワンピースからチラ見えする綺麗に処理された腋……。それだけで僕はたまらなく興奮し、シャワーに行く前にもうすでに我慢汁でトランクスをべっとりと濡らしてしまっていました。
たしか7月の終わり頃だったと思います。いつものように店に予約の電話を入れると、店長から信じられないひと言が。
「ユウさん、辞めちゃったんですよぉ」
何かの間違いではないかと思いました。
「しばらくこの仕事から離れたいということで、いったん退店することになったんです」
納得がいかない僕は食い下がりぎみに聞き返しました。
「じゃあ、また戻って来るってことですか?」
「いやぁ……それはちょっと、何とも言えませんねぇ」
僕はあきらめがつかず、店長をしつこく問い詰めましたが、結局それ以上のことはわかりませんでした。電話を切ったあとも、僕は携帯電話を握りしめたまま呆然と立ち尽くしていました。
店長、あんた気が狂ったのか?!
ユウさんが退店してから『スイートハニー』には行かなくなりました。たまにどこかのデリヘルを利用することはありましたが、風俗通いの頻度もぐんと下がってしまいました。
それでも僕はユウさんのことが忘れられず、彼女と炬燵に入ってイチャイチャしたときのことを思い出しながら自分を慰める日々が続きました。
それから半年以上が過ぎた3月初旬。僕は久しぶりに『スイートハニー』へ遊びに行ってみたくなり、店に電話をかけてみたのでした。
電話には店長ではなく、あの小柄な宇宙人みたいなスタッフが出ました(声の感じですぐにわかりました)。
ちょっと緊張しながら「Sですけど……」と名乗ると、僕のことを覚えてくれていたようで、「あ、お久しぶりですね」と言われました。
僕がその日のおすすめの女の子を聞こうとしたとき、スタッフがそれをさえぎるようにこう言ったのです。
「ユウさんをご指名ですか?」
僕はとっさに「えっ?」と聞き返しました。
「ユウさんは辞めたんじゃないんですか?」
「いえ、系列店に移っただけです」
「ええっ!」
僕は思わず大声を出してしまいました。携帯電話をぎゅっと耳に押し当て、「ほんとですか? うそじゃないですよねぇ?」と強く念を押すように聞き返しました。
宇宙人みたいなスタッフの苦笑いの声が聞こえてきました。
「ほんとです。同じ大国町の、うちの系列店に在籍してます」
前年の夏に『スイートハニー』の系列店がオープンしていたそうで、そこにユウさんが在籍しているとのこと。
いったい何がどうなってるのかわからず、僕が携帯電話を持ったままパニックになっていると、スタッフが言いました。
「じつは、他のお客さんからもそういう苦情というか……ユウさんが退店したと思ってらっしゃる方が何人かいらっしゃって……」
どうやら店長が客に、ユウさんが辞めたという嘘の情報を伝えていたようなのです。なぜそのようなことをしたのかわかりませんが、店長はまもなくして店を辞め、今は宇宙人みたいなスタッフが『スイートハニー』の店長を務めているということでした。
「何でそんなことになったんでしょうかねぇ……」
スタッフは自分もよく状況が飲み込めないといった感じで、申し訳なさそうに言いました。
僕は腹立たしいやら悲しいやら、でも猛烈にうれしいやらで自分でも訳が分からなくなり、電話を切ったあと何度も深いため息をついてしまいました。
再会、そして別れ。
さっそく系列店に電話をかけましたが、あいにくユウさんは予約で埋まってしまっていて、この日は遊ぶことができませんでした。翌日は僕は仕事でしたが、迷わず予約を取りました。
1日くらい仕事を休んでも構わないと思いました。
次の日の午後、少し早めに家を出て日本橋で腹ごしらえをし、それから大国町へと向かいました。
受付を済ませると、スタッフから同じマンション内にあるプレイルームの部屋番号を教えられ、エレベータに乗りました。
心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしながら部屋のインターホンを押すと、すぐに彼女が出てきました。
「あっ、来てくれたんだ。お久しぶりー」
屈託のない笑顔に、僕の緊張も一気にほぐれました。
部屋に入ると、ベッドの前に炬燵がありました。初めて会ったあの日の記憶がよみがえってきて、僕は思わずユウさんに抱き着いてしまいました。彼女が「う~ん」と言いながら、僕の背中をやさしく撫でてくれました。
彼女にうながされ、ふたりで炬燵に入ると、恋人どうしのようにキスをしたり体をまさぐり合ったりしてイチャイチャする時間を楽しみました。やっぱりこの瞬間が最高に幸せだなぁと、つくづく思いました。
ユウさんのニットの中に手を入れ、背中を撫でながらブラジャーを外そうとしたとき、彼女が改まったような口調でこう言ったのでした。
「お兄さん、じつはね。わたし、今日でお店を辞めることになってるの」
「えっ?」
僕はとっさに意味を飲み込めず、彼女の背中に手を回したままぼーっとしていました。
「せっかく久しぶりに来てくれたのに、ごめんなさい」
彼女は申し訳なさそうに言いました。それから小さくニコッと笑うと、僕の両頬に手を当ててキスをしてきました。
「ああ……そう……」
僕はそう口にするのが精いっぱいでした。何も考えられなくなっていました。
「うん。ごめんね。でも、最後まで楽しんでいってほしい」
彼女の言葉に、僕は一瞬泣きそうになりましたが、ぐっとこらえ、何とか気持ちを切り替えました。
バスルームへ行くと、僕はユウさんにむしゃぶりついていきました。彼女をバスルームの床に押し倒し、そのやわらかさを自分の手でしっかりと確かめるように彼女の胸を揉みしだきました。股間のワレメに顔を埋め、舌を這わせ、指を入れて執拗に責めました。それでも彼女は少しも嫌な顔をせず、すべて受け入れてくれました。
ベッドの上でも彼女の体を存分に弄びました。彼女もこれまでにないくらい激しく乱れ、僕を慰めてくれました。3回戦交え、終わったときには、彼女も僕もすっかり気が抜けたようになっていて、ぐったりと横たわっていました。
ユウさんがひとりでバスルームへ入って行きました。僕はシャワーを浴びる気になれず、そのまま服を着て帰り支度をしました。
「今までありがとうございました。すごく楽しかったです」
「僕のほうこそ、ありがとうございました。じゃあ、お元気で」
もっと言いたいことはあったはずですが、言葉が出てきませんでした。
廊下まで出てきて手を振ってくれる彼女に向かって軽く頭をさげると、僕はいつもよりゆっくりとした足取りでエレベータホールへと歩いて行きました。
マンションから出たところで、不意に込み上げてきたものを抑えきれなくなり、僕は小さな子供のように、その場に立ち尽くしたまま人目をはばからずに泣いてしまったのでした。