昨年10月、大阪市淀川区十三の繁華街の一角で飲食店を含む建物6棟、約260平方メートルが焼ける火災がありました。その中には、私が以前コラムの中で触れたことのあった店もありました。
すっかり焼け落ち、ほとんど原型をとどめていないその姿を見た時、あの当時の記憶がいくつもよみがえってきて、何だか切ない気持ちになりました。
この度のような不運な事故によるものにかかわらず、長引く不況の煽りを受けて次々と姿を消していく古き良き時代の飲食店や風俗店などは後を絶ちません。
そんな中のひとつに、今も私の記憶にしっかりと焼き付いて離れない、とある場末の小さなスナックがありました。今回は、その店のお話をしてみようと思います。
魅惑的な若いホステス
私が酒屋で働いていた頃、週に1回くらいのペースで配達に行く場末の小さなスナックがありました。
見た感じ40代なかばくらいのママと30代くらいのチーママ。そして、まだ20代前半くらいと思われる若いホステスの3人で切り盛りしている店でした。
私が納品に行くのはたいてい営業時間前で、店に入るといつも若いホステスがひとりで開店準備をしていました。
たしか「ミナ」という源氏名だったと思います。彼女は水商売の女性にしては口数が少なく、若いのにきゃぴきゃぴしたところが少しもありませんでした。たまに和服を着ていることがあったのですが、どこか淑やかな雰囲気さえありました。
「あの女の子、美人やし、若いのに色っぽいなぁ。なかなかスタイルもええし」
酒屋の先輩従業員が口元にいやらしい笑いを浮かべながらそう話していましたが、たしかにその通りだったと思います。
どう見ても20代前半くらいにしか見えないのに、どこか大人の女の色香のようなものを漂わせていて、彼女ににこっと笑いかけられて、私も思わずぞくっとしたことがありました。
和服姿もよく似合っていましたが、露出度の高いドレスもうまく着こなしていて、スタイルの良さは一目瞭然でした。若いからか決して肉付きのいい体ではありませんでしたが、胸はそれなりに大きく、腰からヒップにかけてのラインもすごく綺麗でした。
納品に行った際、前かがみの姿勢で作業している彼女のお尻をこっそり盗み見ていた私は、危うく勃起してしまいそうになったほどでした。
帰りの車の中でずっと彼女のことを思い浮かべて妄想にふけっていたせいか、店に戻ったとき、先輩従業員から「おまえ、またあの子のケツ眺めて興奮しとったやろ」と図星を指され、テンパってしまったこともありました。
それほど、そのミナという若いホステスは魅惑的だったのです。
すっかり彼女の魅力に取りつかれてしまい…
そのスナックに配達に行くようになって半年くらい経った頃だったと思います。クリスマスシーズンの寒い日の夜、追加の注文があって、私はその日2度目の配達に行くことになったのでした。
営業時間中に私が納品に行くのはその日が初めてでした。忘年会でもやっているのか、店内は客であふれ返っていて、注文の瓶ビール30本入りのケースを抱えて入って行く余裕はありませんでした。
私が店内を覗いていると、中からミナが出てきて、「わたしがちょっとずつ持って行きます」と言い、瓶ビールを5本ずつくらい抱えて店内へ運んでくれました。
支払いも店の外で済ませてもらいました。納品書と領収書を渡そうとしたとき、互いの手と手が触れ、彼女が「冷たーい。お兄さんの手、冷たいですねぇ」と言いました。
「そうなんです。今日は外回りばっかりで…」私はちょっと照れくさくなりました。
すると、「わたしが温めてあげますよ」と彼女が私の手をとって優しくマッサージしてくれたのです。彼女は少し酔っている様子で、いつもより饒舌で、頬にも赤みがさしていました。
「はい、もう大丈夫ですよ。お仕事がんばってください」彼女はそう言うと、いたずらっぽい笑みを浮かべて私の目をじっと見つめてきました。
手を離したあともその場で呆然としている私を見て、彼女が「フフッ」と小さく笑いました。
それ以来、私はすっかり彼女の虜になってしまいました。そのスナックから注文が入ったときは自分に配達の担当を譲ってほしいと先輩従業員に頼みました。
「あの若いホステスを口説くつもりやったら、やめといたほうが身のためやぞ。あの子は何か危険なにおいがする。俺はそういう鼻が利くんや」
先輩従業員はそう忠告してきましたが、私はミナのなまめかしい姿態を想像するばかりで、まったく聞く耳を持たなかったのでした。
配達に行くと、私はこれまでよりも積極的に彼女に話しかけるようになり、徐々にアプローチをかけていきました。彼女のほうも満更でもない様子で、せまい店内ですれちがう際に、さり気なく体を触れさせてきたりしました。
携帯のメールアドレスを教えてもらおうとすると、やんわりと断られましたが、その当時は私もまだ若かったので、一度や二度ではあきらめず、その後もアプローチを続けました。
何としても彼女を口説き落として、デートに誘い、セックスをしたかったのだと思います。
彼女のほんとうの姿
「あの女の子、警察に連れていかれたらしいぞ」
先輩従業員からそう言われた時、てっきりどこかの風俗かセクキャバの話だろうと思いました。しかし、事実を知って私は愕然としました。
ミナというあの若いホステスが、じつは15歳の中学生だったというのです。しかも彼女はママの実の娘で、ママは違法であることを承知のうえで未成年の娘を夜の店で働かせていたのです。
ミナは事情聴取を受けただけで済んだようでしたが、ママは未成年者を働かせた容疑で逮捕され、店にも営業停止処分が下されました。
さらに私を驚かせたのは、ミナが母親に無理やり働かされていたのではなく、小遣い欲しさに自らすすんで働きたいと言ったらしいという話でした。
私はうなだれ、ただただ溜め息をつくしかありませんでした。
「そやから言うたやろ。あの子は危険やて。まあ、よかったやないか。手を出してしもうたあとやったら取り返しのつかんことになってたぞ」
先輩従業員は私の肩に手を置くと、「ママの旦那はヤクザや。つまり、あの子はヤクザの娘っちゅうことや」と言い、にやっと笑って見せました。
「えぇぇ、うそでしょ…?」私は弱々しい声で言うと、さらに大きな溜息をつきました。
あんな色っぽい女性が15歳の中学生だったなんて、いったい誰が見抜くことができたでしょう。
和服姿も露出度の高いドレス姿も、どう見ても大人の雰囲気でした。あんな色気があってスタイルのいい中学生がいるなんて信じられませんでした。
しかもヤクザの娘だったなんて…。
もし彼女を口説き落としてセックスしていたら、私は未成年者に対する淫行で逮捕されていたかもしれません。さらに、ヤクザである彼女の父親にバレて指を切り落とされていたかもしれません(その程度で済めばいいのですが…)。
その事件のあとしばらくは、私はスナックやセクキャバなどに納品に行っても、あまり女の子のほうを見ないようにしていました。セクシーな服装をしている女の子が多いので、つい目を向けたくなってしまうのですが、やはり危険なことに巻き込まれるのが怖かったのだと思います。
客と売春する中学生ホステス
あのスナックは営業停止処分が解除されたあと、いちどは営業を再開したのですが、しばらくすると閉店してしまいました。その後、チーママだった女性がべつの場所で新店をオープンしたという話は聞きましたが、あの母親と娘がどうなったのかは知りません。
先輩従業員が納品先のバーのマスターから耳にした話では、あの店のママは、日頃から常連客の男とホテルに行って売春をしていたそうです。
また、あまり信じたくもない噂ではありますが、ミナもまた母親と同様、売春まがいのことをしていたとか…。
じつはそのスナック以外にも、ママが未成年の実の娘を働かせていた店を私は知っています。そのママの旦那もヤクザでした。
水商売の店や風俗店というのは、客として遊びに行くぶんには楽しく、魅力的に映るものですが、ふと裏側を覗いて見ると、一般常識では考えられないようなことがおこなわれていることがあります。
私はたまたま酒屋の仕事をしていたことで、そんな裏側を覗いてしまったわけです。笑えるような面白い話、怖い思いをした話、ちょっと不思議な出来事…、色々ありました。そんな裏側で起きていたエピソードを、これからも少しづつ綴っていきたいと思っています。