恐喝、売春、違法薬物…。暴力団のフロント企業が主催するネズミ講のセミナーに参加した話。

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恐喝、売春、違法薬物…。暴力団のフロント企業が主催するネズミ講のセミナーに参加した話。

裏ネタ

なかぞの 0 2,391 2019/10/28
これは、私が大学生だった頃の話です。
当時、悪質なマルチ商法やデート商法といった詐欺行為が巷で流行していて、大阪のミナミでは毎日のように怪しげなセミナーやパーティーイベントが開催されていました。

じつは私も、綺麗なお姉さんから声をかけられ、危うくデート商法に引っかかりそうになった経験があり、そういった怪しげなものにはできるだけ近づかないようにしていました。
 
そんなさ中、親しい仲間に誘われて、不本意ながら、とあるセミナーに参加することになったのです。

池袋でナンパした女の子たち

その日、私と友人のMは、夜行バスに乗って東京へ向かっていました。
大学生になって間もなく、親しい友人たちとバンドのまねごとを始め、誰かの家に集まったり、スタジオを借りたりして練習するようになっていました。
友人Mもそのメンバーのひとりで、ボーカルを担当。私はキーボードを担当していました。
 
池袋のサンシャインシティで『楽器フェア』というイベントが開催されることを知り、メンバー全員で東京へ旅行に行く計画を立てていましたが、それぞれのスケジュールが合わず、結局、私とMのふたりだけで行くことになったのでした。
 
早朝に新宿に着き、ファーストフード店で軽く食べたあと池袋へ移動し、『楽器フェア』のオープン時刻まで街をぶらぶらしていました。
サンシャインシティの近くのゲームセンターで時間をつぶして出てきたとき、Mが何やらうれしそうな顔で、私に耳打ちしてきました。

「あそこ見てみい、カワイイ子がおる。あれ、ぜったいナンパ待ちやで」

Mが指さした先にはふたりの清楚系の女の子がいて、見たところ私たちと同い年くらいでした。

「ナンパしてみいひん?」
「えー、なんか嫌やわあ」
「大丈夫やって。あの子らぜったいナンパ待ちやから。見たらわかんねん」

私はあまり気が進まなかったのですが、ナンパし慣れているMはやる気満々の様子でした。
 
Mの巧みな話術と押しの強さでナンパ自体は成功したのですが、想像とはちょっと違った展開になりました。
私たちはその女の子たちのことを勝手に東京人だと思い込んでいたのですが、ナンパしてみたら、じつは彼女たちも大阪から来た観光客だったのです。
Mはちょっと拍子抜けした様子でしたが、とりあえず4人で『楽器フェア』に行くことになりました。
 
『楽器フェア』をすっかり楽しんだ私たちは、少し遅めの昼食をとり、そのあとカラオケに行くことになりました。
Mはあわよくば彼女たちをホテルに連れ込もうと考えていたようでしたが、それは叶いませんでした。

そのかわり、彼女たちからとある説明会に参加してほしいと頼まれたのでした。
『Aプランニング(仮名)』というイベント会社が、大阪の心斎橋で毛皮の販売会をおこなうそうで、その販売員のアルバイトをしてみないかという誘いでした。彼女たちも先月からアルバイトを始めたといい、たった2週間で25万円稼ぐことができたと話しました。
 
デート商法に引っかかりそうになった経験がある私は、咄嗟に怪しいと感じましたが、彼女たちに対して下心丸出しのMはすっかり乗り気で、その説明会に参加することを承諾してしまったのでした。

「わたしたちも説明会に参加するから、終わったらいっしょにごはんでも行こう」

彼女たちにそう言われ、Mは鼻の下を伸ばしていました。

参加した先はネズミ講のセミナーだった

2週間後、心斎橋のとある会場に向かいました。私はMに懇願され、しぶしぶついて行くことになりましたが、とりあえず説明会に参加するだけで、毛皮の販売員のバイトなどする気はないと、彼に言いました。
 
学校の体育館くらいの広さのパーティー会場に入り、たくさん並ぶ円形テーブルのひとつに案内されました。
会場に足を踏み入れた瞬間、ヤバいところに来てしまったと思いました。若い女の子たちの多くがキャバ嬢風で、男はホストや半グレのような連中が目立ちました。

池袋でナンパした女の子ふたりの姿を探しましたが、見つかりませんでした。近くにいたスタッフの女性にふたりのことを尋ねてみると、今日は来ていないと言われました。
 
「だから言ったやろ、怪しいって」

私が言うと、Mは口をとがらせて黙り込みました。

「まわりの連中を見てみい、ぜったいヤバいぞ。今のうちに抜け出そ」

小声で言い、私が席を立とうとしたときでした。半グレ風の男たちが全ての扉を閉め、中から鍵をかけ始めたのです。男たちは門番のように手を腰の後ろで組み、それぞれの扉の前に立ちました。
私は溜め息をつきました。Mもようやく状況が飲み込めてきたようでした。
 
まもなく、専務と呼ばれる30代前半くらいの男が前に出てきて挨拶をしました。
ガラの悪そうな顔をした男で、自分もかつて毛皮の販売員をしていたことがあり、稼いだ金でBMWを買ったとか、夜な夜な高級クラブで豪遊したとか、嘘っぽい自慢話を始めました。
 
そのあと幹部の女性に代わり、販売員のアルバイトの説明に移りました。話を聞いてすぐ「ヤバい」と思いました。れっきとしたネズミ講でした。
知人や友人など、できるだけ多くの人に声をかけ、毛皮の販売を手伝ってくれる仲間を作りましょうと、幹部の女性は何度も繰り返し言いました。

彼女には400人くらいの販売を手伝ってくれる仲間がいるそうで、月収は200万円を超えていると、声高らかに話しました。
 
私はだんだんアホらしくなってきました。隣を見ると、Mが真剣な表情で幹部の女性の話に聞き入っていました。「こいつ、まだ目が覚めてなかったのか」と思い、私は溜め息をつきました。
 
各テーブルごとに個別の説明会が始まりました。
村上しおり(仮名)というリーダーの女性が、ヒステリックな口調で販売方法の手順などを説明しました。見るからにキャバ嬢風の女性で、質問をしてくるたびに、私やMの体に手を触れてきました。

同じテーブルには女性の参加者が2人いたのですが、そのうちのひとりが質問に答えられず、おどおどする場面がありました。すると、いらついた様子の村上しおりが思い切り舌打ちし、足で椅子を蹴とばしたのです。

「おまえふざけんなよ!アタシが言ったこと聞いてなかったんか!」

罵声を浴びせられ、女性は恐怖に固まってしまいました。
 
1時間ほどで個別の説明会が終わると、村上しおりがひとりの若い男を連れてきました。
どう見ても10代で、スーツではなく制服を着ていたら高校生で通りそうな感じでした。

「こちら、チーフの金原さん。このテーブルにいるみんなは金原さんのもとに所属することになるんで、しっかり顔を覚えておいてくださーい」

村上しおりに紹介された金原(仮名)というその若い男は、気持ち悪いくらいニコニコしていて、私たちひとりひとりに慇懃に挨拶をしました。

「今後、ぼくがみなさんのサポートをしていきますんで、困ったことがあったら何でも聞いてください」

金原は私たちに自分の携帯番号を教え、何かあればいつでも連絡してほしいと言いました。
すでに私たちが販売員のアルバイトをすると決めてかかっているような口ぶりでした。
 
説明会が終わって会場を出ると、私はMに忠告しました。

「ぜったいやめとけ。かなりヤバいぞ。雰囲気でわかったやろ」

私は強い口調で言いましたが、Mは曖昧な返事を繰り返すばかりでした。

男は恐喝、女は売春

2日後、バンドのメンバーで私の部屋に集まり、練習をしました。
そのとき、Mが例のアルバイトをやってみることにしたと言いました。すでに金原や村上しおりにも意思を伝えたらしく、近々まわりの友人や知人に声をかけてみようと思っていると話しました。
 
私が何か言おうとする前に、Tさんが口を開きました。TさんはMの高校時代の先輩で、サポートメンバーとしてバンド活動に参加してくれていました。

「なかぞのから聞いたけど、そのバイト、ネズミ講らしいなあ?絶対やるなよ。あとで後悔するぞ」

Tさんは落ち着いた口調でMを説得しました。Mは先輩の忠告をしぶしぶ受け入れたように見えましたが、実際は少しも気持ちは変わっていなかったのでした。
 
翌日、私は金原に電話をかけ、アルバイトの話を辞退したいと申し出ました。
すると、いきなり彼の態度が豹変したのです。

「お前なあ、自分が何言ってるかわかっとんのか、ええっ?みんなが必死に頑張っとるいうのに、お前は逃げるんか!あの説明会やるのになんぼ金かかってる思っとんねん!お前がその金払えんのか、ボケっ!まあええわ、お前みたいなやつ、おってもおらんでもいっしょや。やめろやめろ!さっさとやめてまえっ!!」

一方的にまくしたて、金原は電話を切りました。
ニコニコしている姿しか見たことがなかった私は、その豹変ぶり正直びびりました。と同時に、やっぱりその手の輩だったかのと思い、溜め息が漏れました。
 
 
Mが顔を引きつらせながら私のところへやって来たのは、それから2か月後のことでした。
彼は私の部屋のベッドに腰を下ろすなり大きな溜め息をつきました。

「あのバイト辞めてきた。やっぱりヤバい会社やったわ」

そう言って肩を落としたM。友人や知人に声をかけてまわったが、ぜんぜん人が集まらず、他の同い年の参加者に相談してみたところ、ヤバい噂を耳にしたのだといいます。

「Aプランニングって、暴力団のフロント企業らしいわ…」
「やっぱりな…。説明会のときの雰囲気が普通じゃなかったもん」
 
Mが聞いた話では、それなりの売り上げを出している販売員は、まともなやり方はしていないということでした。男はなかば恐喝まがいのことをし、女は自ら体を売って人を集めているのだといいます。

売春のあっせんを持ち掛け、それと引き換えに毛皮のコートやマフラーなどを購入させる男もいるのだとか。
 
「それくらいやらな何百人も集められへんし、そもそも毛皮のコートやマフラーを買おうと思う人なんて、そんなにおらんやろ。2週間で20何万も稼いだとか、月収200万超えてるとか、あんなん全部ハッタリやで」

私が言うと、Mはうなずき、「お前の言う通りやったわ。おれが間違ってた。ごめん」と頭を下げました。
 
 
それからしばらくして、金原が売上金の一部を持ち逃げし、行方をくらましているという話を聞きました。また、村上しおりが違法薬物の常習者だったこともわかりました。
『Aプランニング』は定期的に社名を変えながら、相変わらず同じようことをやり続けているようでしたが、私にはもはやどうでもいいことでした。
 
Mはその後、T先輩の紹介でコピー機を扱う会社に就職しました。
私も就職活動が忙しくなってくると、Mやその他のメンバーとも会う機会が減っていき、いつしかバンドも自然消滅してしまいました。
 
「うまい話には裏がある」とは正にこのことだと、実感できた体験でした。


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この記事を書いた人

なかぞの

大阪府生まれ。22歳で文芸同人誌に参加。文学・アート系雑誌での新人賞入選をきっかけに作家業をスタート。塾講師、酒屋の配達員、デリヘルの事務スタッフなど様々な職を転々としたのち、現在はフリーライターとして活動中。足を踏み入れるとスリルを味わえそうな怪しい街並み、怪しいビルの風俗店を探し歩いている。

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