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あの事件は「私人逮捕系YouTuber」の先駆けだった！掲示板に書かれていた女子トイレ撮影募集に面白半分で乗ったら警察に逮捕された話

盗撮

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なかぞの 0 10,855 2023/11/24

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「私人逮捕系YouTuber」が逮捕された事件がちょっと話題になっているようです。

私はYouTubeではこの類のチャンネルは見たことがなかったのですが、中国のSNS「WeChat」で以前から動画が拡散されていて、そこで何度か閲覧したことがありました。

正直、不快感しかありませんでした。こういった行為はそのうちさらにエスカレートしていき、いずれ何らかのかたちで大きな問題を起こすだろうと予想していました。

私が過去に書いたコラムにも、これに近い手口の事件についてのエピソードがありました。

いま考えると、あれは「私人逮捕系YouTuber」の走りみたいなものだったのかもしれません。

掲示板の誘い文句に面白半分で乗ってみたら…

これは、今から20年くらい前に実際にあった話です。

私の中学時代の友人の弟が体験したもので、下手すると人生を棒に振ってしまいかねない、取り返しのつかない結果になってしまった事件です。

当時21歳だったT君（仮名）は、パソコンで風俗店のホームページを見ていました。ページの一番下にバナー広告がいくつか並んでいて、そのひとつを何気なくクリックすると、アダルト掲示板に飛んでしまったといいます。

とくに興味はなかったものの、聞いたことのない名前の掲示板だったこともあって、どんなことが書いてあるのかと思い画面をパラパラと斜め読みしていました。

ページを繰っていくと、ある特定の地域で発生した事件について語っているスレッドが目に留まりました。ちょっとオカルトぽい内容の書き込みもあり、現実にはありえないような事件をでっち上げただけのスレッドだとわかりました。

ところが、その中にちょっと面白そうな書き込みを見つけたのです。

「８月25日の16時に大阪市○○区にあるA公園に行ってください。そこのトイレの個室内で若い女性が用を足しています。その様子を動画で撮影してきてください。５分程度の動画で構いません。撮影したものを下記のメールアドレスまで送ってくださった方に、謝礼として５万円を差し上げます」

そう書かれてあったのでした。

あまりの馬鹿さ加減にT君は思わず笑ってしまいましたが、ふと思い直し、その誘い文句に乗ってみるのも面白いのではないかと考えました。A公園の場所は知っていたので、面白半分で行ってやろうと思いました。

もし文面通りのシチュエーションが用意されているのであれば、その女性もサクラに決まっている。撮影されることは了承済みなのだろう。

動画を撮影して本当に５万円がもらえるのなら、こんなおいしい話はない。T君はそう思い、暇つぶしのつもりでやってみることにしたのでした。

予告どおりの展開

その日はかなり蒸し暑く、自転車でA公園に着いたときには汗だくになっていました。

このあたりは普段から人通りが少なく、公園内には人の姿はありませんでした。

入り口付近に自転車を停め、携帯電話を取り出しました。16時ちょうどになるのを待って、T君はトイレへと向かいました。

面白半分でやって来たとはいえ、いざ実行するとなると、かなり緊張してきました。周囲に誰もいないにもかかわらず、歩きながらきょろきょろと辺りを見回していました。

緊張のせいか、一歩足を踏み出すたびに、膝からすっと力が抜ける感じがしました。ベンチが並ぶ一角を過ぎ、コンクリートの壁で囲われたトイレの前で立ち止まりました。

恐る恐る中へと足を踏み入れました。狭く、決して綺麗とはいえないトイレでした。男女別にスペースが分かれているわけではなく、男性用の小便器が２台あり、それと背中合わせに個室が２つあるだけでした。

女性がいるのは、おそらく手前の個室のほうだろうと思いました。もうひとつの個室はドアが開け放たれた状態でした。

T君は足音を立てないようにそーっと近づいて行き、まずドアが開いているほうの個室を確認しました。やはり誰もおらず、女性がいるのは手前のドアが閉まったほうの個室だとわかりました。

一瞬、こんな馬鹿げたことはやめて帰ろうかと思いましたが、もし本当に５万円がもらえるのならという考えがよぎり、思い切って実行に移すことにしたのでした。

横にある洗面台の上にのぼると、個室の壁にもたれかかるようにして手をつき、上から個室の中を覗き込みました。

すると、本当に女性が用を足していたのです。女性は洋式便器に座り、下を向いていて顔は見えませんでしたが、間違いなく掲示板の書き込み通りのシチュエーションでした。

T君はいささかあっけに取られましたが、気を取り直し、ズボンのポケットから携帯電話を取り出すと、動画モードで撮影を始めました。

女性はジーンズと下着を膝のあたりまで下ろしていましたが、股間のあたりはTシャツの裾で隠れていて見えませんでした。

T君が味わっていた緊張感は尋常ではなく、心臓は今にも破裂しそうなくらいでした。カメラを向けることで精一杯の状態で、女性の恥ずかしい姿を見て興奮する余裕などありませんでした。

女性のほうは演技をしているのでしょう。時折、髪の毛を触ったりするていどで、顔を上げることもなければ、立ち上がろうともしませんでした。

気が付くとすでに５分を過ぎていました。T君は撮影をやめ、音を立てないよう気を付けながら、ゆっくりと床の上に降りました。

溜め息をつく余裕もなく、すぐさま外へと飛び出しました。きょろきょろと辺りを見回しながら、自転車を停めてある場所へと急ぎました。

思いもよらない結末

自転車のサドルに手を置いたT君は、ようやく緊張の糸が切れ、その場にしゃがみこんで深いため息をつきました。すぐには立ち上がることができず、しばらくそのままの姿勢でいました。

女性がトイレから出てくる様子はありませんでした。撮影者が公園内から完全に姿を消すまで、トイレで待機しているよう言われているのかもしれないとT君は思いました。

と、その時、どこからかサイレンの音が聞こえてきたと思うと、公園の、ちょうどT君がいる場所とは反対側の入り口付近にパトカーが停まったのです。

何事かと思い、立ち上がって見ていると、パトカーから降りてきた２人の警察官がT君のほうへ向かって歩いてきました。

「ちょっとよろしいですか？」若い警察官が声をかけてきました。

もうひとりの年配の警察官がT君のことを一瞥したあと、トイレのほうへと走って行きました。

「はい、なんでしょうか？」T君は緊張しながら答えました。

「あちらのトイレにいる女性から通報がありまして、あなたから盗撮されたと言ってるんですがねえ」

若い警察官はT君の目をじっと見てきました。

「え…？あぁ…」

T君はとっさに否定することもできず、ただぼんやりと警察官の顔を見返すしかありませんでした。

T君はパトカーに乗せられ、取り調べを受けました。携帯電話からは動かぬ証拠が出てきました。まもなく応援のパトカーが駆けつけ、警察官の数も増えました。

若い女性が年配の警察官に付き添われ、トイレから出てきました。女性はうなだれた様子で、ずっと下を向いたままでした。パトカーが女性を乗せて走り去りました。

さらにもう一台べつのパトカーが駆けつけ、降りてきた警察官のひとりがT君に手錠をかけました。T君は両サイドを警察官にはさまれた状態で、警察署へと送られたのでした。

T君は罪を認め、警察署内にひと晩留置されたあと、罰金を払って釈放されました。

取り調べの際、掲示板にあった書き込みのことや、自分が罠にはめられた可能性があることを一度は話そうと思いましたが、それ以上事をややこしくするのが嫌になり、結局、口にしませんでした。

それ以来T君は、風俗サイトのバナー広告をクリックしたり、怪しげな掲示板を閲覧したりすることはなくなったといいます。

正義を盾にした犯罪行為

冒頭で触れた「私人逮捕系YouTuber」による行為は、いわば正義を盾にした犯罪行為のようなものです。

じっさい、事実無根の男性を捕まえて「警察へ行こう。覚醒剤を持ってるだろ」と言い、羽交い絞めにして身動きが取れない状態で警察に突き出そうとしたこともあったそうですから、彼らがやったことは犯罪と言っても差し支えないでしょう。

T君が逮捕された事件も、この私人逮捕系YouTuberによるものと似ているように思います。

現場に第三者が現れてT君を私人逮捕したわけではなかったものの、最初から「仕組まれた」事件であったことは否めません。

T君が盗撮行為を終えたところへタイミングよく警察が駆け付けていることから考えても、おそらく、その事件を演出した第三者が、トイレ内にいた女性から連絡を受けるなどして警察に通報したのでしょう。間接的な私人逮捕みたいなものです。

もしかすると、公園の近くに誰か潜んでいた人物がいて、事件現場を撮影していた可能性もなかったとはいえません。

「君子は危うきに近寄らず」と言います。面白半分に怪しい話や危険なにおいのする話には乗らないようにしたいものです。

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